タンタンはなぜ成長しないのか
2004年12月に発刊された「カナダ医学協会雑誌」掲載論文より。原題は「反復性頭部外傷による獲得性成長ホルモン欠乏症および低性腺刺激ホルモン性性腺機能低下症の一例、もしくは、『タンタン、神経内科医を訪れる』」という長大なもの。なお、左の写真は本論文の研究チームと症例。<link>
我々は、著名人でありつつ、二次性徴発現と身体成長に遅滞が見られる特異な一症例を取り上げたい。我々はその症例、1929年から1975年にかけてその活躍が出版されたルポライターのタンタンが、なぜ成長せず、ひげ剃りも必要としなかった理由を発見できたと信ずるものだ。
我々はタンタンの出産前後の経過を知ることが出来ない。彼の物語を書いたエルジュによれば、タンタンが創作されたときには既に14-5才であったという。従って、最後の物語「タンタンとピカロたち」に登場した時、彼は既に60才にはなっていたはずであるが、ひげも生えず白髪もなく、二次性徴も全く示していない。
最近の研究によって、反復性頭部外傷にともなう脳下垂体機能不全の病理解明が進みつつあるが、我々はタンタンの発育停滞こそが、外傷性下垂体機能不全の第一報告例だと信じる。
我々はタンタンの物語を徹底的に調べ、著明な中枢神経系外傷の既往を検討した。第一著者であるアントワーヌ・シェル(5才)は、10以上の数を数えられる第二著者、ルイ-オリビエ・シェル(7才)の協力の下に、すべての物語を読み込み、タンタンに起こった意識消失を伴う外傷について、その原因、意識消失時間、および外傷重症度(これは意識消失時、タンタンの頭部周囲を回転する物体の数で表現されている)を取り出した。後二者については、スピアマン順位相関係数を算出した。
その結果、タンタンシリーズ全23巻のうち16巻において、タンタンが50回に及ぶ重度の意識消失を来していることを見いだした。しかも、そのうち43例で第三度の脳振盪を起こしていた。26例において、タンタンは鈍器で殴られることで脳振盪を起こしており、もっともよく使われたのが棍棒(8例)である。他の原因による意識消失は、銃弾(3例)、クロロフォルム中毒(3例)、爆発(4例)、自動車事故(3例)、そして落下(2例)であった。
平均意識消失時間は7.5コマで、平均7.5の物体(リンゴ、星、ろうそく)が、その間タンタンの頭部周囲を回転していた。これらの間には統計的に有意な関係性は認められなかった。
結論:我々はタンタンが繰り返し受けた頭部外傷によって、成長ホルモン不全症と低性腺刺激ホルモン性性腺機能低下症を来したと仮定した。これによって、タンタンの発育不全と二次性徴の遅延、性的活動の消失を説明づけることが出来る。
我々はまた、研究活動に小児を参加させることの有用性も示し得た。結果として、アントワーヌ・シェルは10までの数を数えることを学び、リンゴが頭の周囲を回るという表現形式の意味も知り得た。
本研究においては、診断に必要な発病以前のデータを確認することが出来なかったが、第二著者、ルイ-オリビエ・シェルによれば「かまわないよ」とのことである。
結論として、タンタンの正確な年齢と、身体的、性的発達レベルを確かめることは困難であった、彼の身体は子供だが、その行動は成人のレベルに達している。その冒険のすべてに、ガールフレンドや婚約予定などの夾雑物は出てこない。彼の中性性こそが子供や大人を問わず、75年の公的生活の後もなお、世界中が彼をヒーローとして認める理由であろう。< 以上抄訳>
タンタンは世界中で高い人気を誇るベルギーの漫画シリーズである。日本ではもう一つ人気が高くないが、それは多分、主人公の名前”Tintin”を、英語式に読んでしまって気まずい思いをする人が多いからではないかと思われる。
私も3冊ほどこのシリーズを読んだことがあるが、確かにタンタンは、やたらに悪漢にポカリと殴られては気を失うことが多いようにおもう。登場したときは普通の子供だったのだが、何度もそういう目にあっているうちに下垂体機能不全が進行し、永遠に子供のままになってしまったというのが、この論文の主張。フランス語系のジョーク感覚というのは、今ひとつ回りくどい、というのが正直な感想。
こういうのを読むと、身体的な成長-老化のパターンを全く示さず、時間の進行をくぐり抜けて生活しているかに見える家族の謎を解明する論文を、是非日本人研究者に書いて貰いたいと思う。この場合は、医学系というより相対論の分野かも知れんが。そういえば、少々ショボイのが難点だが、こんなの書いたこともあったっけ。


