セックス・ボム女性は男を自暴自棄にさせる
「性的魅力に溢れた女性が、しばしば非難に晒され、攻撃の対象になるのは何故か?存在脅威管理理論(Terror Management Theory)によれば、女性の性的魅力は男性の肉体の有限性をより意識させ、死の不可避性への思いを高めるからだとされる」。この意表を突いた疑問と回答について詳述しているのがこちらの論文。
著者たちは、意識下にある死の観念は男性が女性から受ける魅力の評価を減じること、死の脅威は男性が魅力的女性を得ようとする傾向を貶め、かつ男性の性的興味を阻害し、男性の性的魅力自体をも低減させ、かつ男性の女性に対する攻撃性をより表現しやすくすることを5つの実験をおこなって明らかにしたという。また、女性にはこの傾向は認められないそうだ。
残念なことに元論文は無料では読めず、抜粋しか読んでないので、一体どんな実験なのかよく判らないのだが、Terror Management Theoryということから想像すると、まず男女の性行動指向を質問紙法で確かめ、その後、「人は必ず死ぬ」という事実に直面させるような情報を与えて、先ほどの指向性に変化が出るのを示すと言うような実験なのではないかと想像する。間違ってるかも知れんが。
我々精神科医の殆どは、古典的な記述的了解心理学に方法論的には依拠するものの、人はこういう物だという仮定に基づく手法とは基本的に無縁なので、この手の社会心理学の新潮流にはまるきり無知である。私みたいに、ジョークのネタにするために、アンチョコ知識だけは仕入れておこうとする不届き者はいるけれど。
この存在脅威管理理論というのは、とにかく人は死の恐怖から逃れるために、不死ともいえる文化を創ってきたのだという理屈だと私は理解しており、適応と自己の遺伝子保存にもっとも有利だから、ある行動様式が受け継がれ発展してきたとする進化心理学と、ある意味もっとも尖鋭に反発する位置にある学説だと思う。
進化心理学は基本的には動物行動学の人間への適用という、地道で妥当な側面があるのだが、一方ではトンデモの宝庫としても知られている。差別とか、攻撃性、偽計というような物が、すべて進化過程で有利だったと妙に強調すれば、そう言う理屈になるのも致し方がないのかも知れない。
その点、このTerror Management Theoryというのは、その前提からそもそも無理があると思える。死の脅威からの回避が基本的行動原理となっている人は確かに存在し、日頃は私らのいいお得意さんなのだが、それは言うならば「病的」なあり方なのであって、とても普遍的とは思いがたい。
個別的な死は避けようが無く、だから人は永遠を目指して文化をつくってきたと言っても、別にそれで個別的な死が回避されるわけではない。だったら性的魅力ムンムンの超美人を前にしたら、なんとしてでもゴカンケイを得て、自分の子孫を作れば永遠に近づけるじゃないか。何も萎縮することはないと思うぞ。
屁理屈を尽くせば、反対の結論を出すのも可能だというのは、この理論の好敵手である進化心理学の場合も同じなんだが、何よりも私らには、こうした奇矯なモデルを元にした理論がそれなりに生き残っていくのが不思議。精神医学が厳密な実証科学だというつもりはないが、ユルくはあっても臨床というそれなりの検証があるわけで。言いっぱなしでも別にかまわないという学問は、やはり堕落するしかないように思える。
なお、写真は”Sex Bomb”をグーグル検索したもので、私の好みと言うわけではない。また、元論文では”Sex Bomb”なんて下品な言葉は使われておらず、”The siren’s call”(サイレーンの誘惑)というもの。< Via>



8月 15th, 2008 at 12:15 AM
>その前提からそもそも無理
ここまで読んで、ほっとした。