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急患を断る病院⋅断らない病院

2008年11月10日 at 9:38 pm in 医学・科学一般 | 8 コメント »

先月はじめ、「出産間近で脳内出血の症状が見られた東京都内の女性(36)が7病院から受け入れを断られ、出産後に死亡」したという出来事があり、ちょっとした騒ぎになったのはご存じのことと思う。正直言って、私は全くこういう問題に興味を持てなくなっているので、大雑把な事情も、有名医師ブログを先ほど読んで知った程度である。

なんで興味をもてないかというと、医療側の十分かつタイムリーな医療供給が常にできるわけがないという本音と、どんな時でも最適な高度医療が受けられるべきだという幻想的要求が噛み合うことは、まずないと思われるからだ。医療を特別視するから問題が見えにくいので、一般的な商品⋅サービスで考えれば、常にほしいものがいつでもどこでもすぐに手に入るなんてことは、いかに便利になった今日この頃とはいえ、常に実現されるわけではないのは当然である。

医療には常に限界があり、制限のもとでベストを尽くすしかないのだが、それは技術的な問題にとどまらず、財政やマンパワーというさまざまな側面を含むのだという、当然の理解が共有されないところでは、どんな改善策も空しいものになると思える。医療側にできるのは、妙に幻想をあおるような理想的医療体制の空手形を切らないようにしておくことぐらいであろう。その意味では、問題となった都立病院が「総合周産期母子医療センター」なんて、大層な指定を受け続けていたのはどんなものだろう。

この問題に関連し、千葉県の某病院がどんな患者でもまずは受け入れるという姿勢を貫いていると、某大新聞が賞賛記事を書き、これまた結構論議になっている。胡散臭く捉える人、一応評価する人、前者のほうがやや多めというところだろうか。

昔、田舎の自治体病院にいたころ、そこはほとんど陸の孤島みたいなところで、その地域の救急はすべて受けるしかなかった。当然、お産関連も来る。精神病棟もないのに、緊張型分裂病で大興奮なんて人もくる。とにかく、一旦受け入れないとしょうがないのだ。

そこで知ったのは、各科の特殊な専門性が必要とされることはそう多くないという事実である。特殊例は確かにあるが、それはケースバイケースで処理するしかない。子供だって、小児科医でないと診られないような例に当たったことは一度もなかったし、お産でもほとんどが正常分娩である。助産師が大概のことをやってくれるので、当直医の仕事は、飲み屋街に消えた産婦人科医を探すことだったりした。

もちろん、これはもう30年近くも昔の牧歌的地域の話であって、今なら専門医が専門的技術を駆使しないと気が済まない利用者によるクレームで、こんな体制は立ち行かないだろう。そのようなギスギスした治療関係に落ち込んでしまったのには、マスコミの薄っぺらな正義感や、それを安易に受け入れる側の問題も大きいが、先端医療幻想を喧伝してきた医療側にも責任があるのではないかと思う。

例の千葉県の病院は、私が経験してきたようなローテク救急をやろうとしているわけではないだろうが、まずは受け入れて診察し、方針を定めるという基本に忠実であろうとしていることは理解できる。結果として、適切な専門医療に繋ぐのが遅れるのではないか、という危惧もわからないではないが、病状の把握も不十分なまま、いたずらに受け入れ先を探して立ち往生しているよりは、よっぽどましなのではないだろうか。

もっとも、そこで本当に得られているのは実際の医療的有効性というより、当事者や家族の納得の問題なのだという点を忘れてはいけないだろう。少なくとも、はじめにあげたケースではそれが一番の問題であったと私には思われる。

8 Responses to “ 急患を断る病院⋅断らない病院 ”

  1. # 1   Aspirin Says:
    11月 11th, 2008 at 11:22 PM

    問題は諸処にあろうかとは思いますが、名戸ケ谷はともかくとして、千葉県にはほかにもっと有名な全救急をうけいれかつ全科そろえている病院があるはずなんですけどね、救急来院件数全国一なんですけど・・・もちろん救急初診は研修医です。そうでなければこの体制を組めるわけがない。あっだからマスコミは都合が悪いから報道しないのか…

    東京都心には私もここ数年住んでいて、全国の医療崩壊とは別の意味で末期的な感じです。あそこにもここにもでかい病院があるのに受け入れないというのは、これはその他様々な医療の問題とは違うんじゃないかと思います。個々の病院ではいっぱいいっぱいなのは認めますが、中規模病院が山ほどで個々にいっぱいいっぱいではねえ…。たとえば千葉で1000床の病院があれば足りるところ、東京には2000床の病院が数個あったっていいでしょう。産婦人科は20人体制(日赤医療センターのみがそうです)の病院が数個あってもいいでしょう、4-5人体制の病院が山ほどあるより。これは今より改善することが可能な数少ない領域だと思います。

    いやっ医局の問題はこえられないことはわかってますよ…

  2. # 2   がんちゃん Says:
    11月 12th, 2008 at 1:33 AM

    急患を断ったら駄目ですよ。

  3. # 3   元院生 Says:
    11月 14th, 2008 at 2:55 AM

     明らかに一見さんによる、しかも本文を読まずにタイトルだけに反応しての無責任なコメントに対して、管理人さんが切れるか、呆れて無視するか、って丸一日様子をみたら、さすが、ちゃんと無視しておられて、僕には出来ない事だと、感心してしまいました。
     変に幻想を書き立てるのは、僕らの分野でも同じで、それで予算を獲得しているんですよね。だから申請書を書くたびに若干後ろめたい気分になります。競争が激しいから、申請書もどうしてもそういう内容になってしまう訳ですが、これは予算獲得に対する審査が完璧で有り得ない現状ではどうしようもありません。

  4. # 4   Aspirin Says:
    11月 16th, 2008 at 4:29 AM

    元院生さんのコメントは、まさか私に向けられたものではないとは思いますが・・・ここで熱い議論をかわすつもりは毛頭なかったのですが、しかしどうも釈然としないです。

    がんちゃんさんのコメントに対してだとしても、科研費と結びつけるのはいかがか。松澤というバカが大声を張り上げて、メタボ健診などという世にもアホな政策が実施されていることに関して科研費の例を出すのはいいとは思うのですがこれは三次救急です。死に瀕した若い妊婦が、受け入れ先と目される病院に断られたことに一般国民が違和感を感じる事について、幻想と切り捨てるのはどうなのですか。脳出血、話の感じではSAHのように思いますが、これが20分でたどりつくか、1時間でたどりつくかが実質的に生死を分ける可能性がある事は明らかです。これは現状確かに最善の状態で受け入れる事はできていませんが、可能な限り早く受け入れるよう努力するというのは先進国なら当然考えるべき通常の医療レベルだと思います。脳内出血なら、脳外科がオペ中でも救急外来で血圧下げるだけでも違います。

    わたしのコメントに戻りますが、本当にマンパワーが足りないならしょうがないです。しかし田舎とは違い都内ではとてもそうは思えない状況にあると言うお話をしました。都内では、女子医大と国際医療センターが歩ける距離にあります。順天と医科歯科なんて隣り合わせで、そこから東大病院まで歩いていけます。NTT関東と、東大医科研病院と、北里大病院と、都立広尾と、日赤医療センターが、だいたい車で5分弱の等間隔にあります。わたしは田舎からきてびっくりしました。こんな贅沢な環境で、なんでこれで救急を断らざるを得ないなんて事がありえるのか。これは医療資源がまったく管理されず分散して存在しているからで、つまり実現不可能な要求をしているというよりは、単純なシステム的な問題が大きいのではないかなあと思ったのです。病院を、ベッドと医師の数をそのままに足しあわせて、各科チーム制にして当番制にし、非番も順番に待機制にして必要があれば呼び寄せる(呼んだら給料出す!これがないのが現状の医師の立場ですが)、そして一次・二次・三次、全救急を受け入れる病院を都内に数個作ればいいのでは。「北米型ER」というやつですが世界に徐々に浸透しているようです。カネはかかるでしょうが、解決に時間がかかる「医師不足」問題はない。

    日本の医療現場だけを見ると確かに非現実的な構想ですが、今みたいな感じで山ほどの小粒病院が寄り添って「うちはムリ」「もう限界」と言い合っている様は、このサイトで普段軽妙に、しかし真実を多く含んで送られる記事の想定する事態とは、少し事情が違うのではないかなあと思った次第です。

  5. # 5   元院生 Says:
    11月 16th, 2008 at 11:33 PM

    ああ、Asprinさん、ごめんなさい。もちろん一行コメントに対してだけです。あれは、管理人さんにほぼ同意の立場として、変にコメントを入れるより、幻想が医療以外の分野でもあるんだ、金や設備を整える為には或る程度の幻想を認めないと予算がつかないんだ、ってな話をしようとしたら、その直前に変なコメントが入って気持ち悪かったから、ああいう書き方になった訳です。
     もちろん、Asprinさんの仰る『単純なシステム的な問題が大きいのではないか』はあると思います。しかし、それは医療現場の人間の責任でなく政治(と選挙民)の責任であって、やはり現実問題としては幻想ですよね。その幻想を打破するのが政治の責任であって、、、、

  6. # 6   Aspirin Says:
    11月 17th, 2008 at 1:59 AM

    やはりそうでしたか。こちらこそカッカしていました。

    実は私の妻がごく最近そんな事態にまきこまれまして。大事なくてよかったですが。それでいろいろ思う所があったのです。正直都内では、田舎の様に医療幻想のもとムリに働かされている事よりも、ああ本当に非効率的だなあ、と思う事の方が多いです。医者いっぱいいるし。(産科についてはクリニックがほぼ全滅ということがあるので、病院に人がいても実質厳しいというのがあるのは理解しますが)

    政府と厚生労働省が医療行政に関しておばかなのは周知の事実ですけど、それは昔からわかっていて、臨床研修についても本来政府が考える事だろうに、これまで医局が自前で関連病院を築き上げてそこで自分たちの研修医を育てていた訳です。それを諸悪の根源の様に言って、しかも現場の事をなにも考えずに改革したあげく現場をぶちこわした厚生労働省はもはや悪魔の領域で、もう期待できません。都内の大学病院が連携して北米型ERつくれないかなあ。と、そこに立ちはだかるのは今度は医局の壁なわけで。。。

  7. # 7   勤務医 Says:
    11月 18th, 2008 at 2:05 AM

    急患の受け入れを病院は無理なわけないでしょう。行政からの援助(税金)ももらっています。働いている医者がダメなんです。
    診療所の経費で高級車乗り回してゴルフ三昧の開業医(私立病院含む)から手に負えない患者を引き継ぐのは、公的病院などでより高度な医療・研究をしているが、薄給の医師なのです。しかも、当直明けも休み無く、36時間勤務の翌日も仕事で、一般事務員の3~5倍の時間働いているでしょう。超勤手当はないか、あっても見合う金額ではありません。
    急患受けて、急患を送ってくる大先生と同じくらいの生活が出来るのなら、喜んで受けてくれるのではないでしょうか?でも、急患受ける側の先生はまじめだからそんなことは言えず、ただ急患の問い合わせが重なると「受けられない」としか言えないのでしょう。

  8. # 8   webmaster Says:
    11月 19th, 2008 at 11:21 PM

    なんか気の利いたレスでもせにゃと思いながら、ずるずると時間ばっかりたってしまったんですが、やはり、今のような当直体制で救急を扱うのは、どう考えても無理でしょうね。よっぽどのインセンティブがないと、賽の河原状況を受け入れたくないのは自明です。

    Aspirin氏の言われるように、何箇所か交代性勤務のERをつくり、そこがちゃんと受ける体制にしていくのが正論だと確かに思います。

    しかし、仮にそういうものができたとして、結局そこに無責任に丸投げされたり、コンビニ感覚受診が殺到して、機能不全になるんじゃないか、とも思ってしまう。

    今の研修医制度は、北米型ERの方向性を容易にするような気がするんですが、なぜかあまり評判がよくない。どうも、いつでも神の手を供えた匠の技が享受できないとダメ、みたいな議論が出てきてしまい、それは必ずしも患者側だけの意見ではない。

    私はあんまり公的病院(私大病院も含みますが)に期待できないほうで、民間が頑張るしかないのではないかと思いますが、その為には十分なインセンティブを考える必要があるのは当然です。

    そうしたらしたで、小ずるい病院運営側に無駄金ばら撒くだけかもしれないし、冴えないビジョンを語ってみても唇寒いばかり、という感じではありますが。

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