グルーチョ・ジョークの起源
先日、グルーチョ・マルクスの有名ジョーク、「私を入会させるようなクラブには入りたくない」の出所について、コメント欄で大嘘を書いてしまったので、手持ちのマルクス兄弟DVDをざっと見直して調べてみたが、結局見つけることが出来なかった。
考えてみれば、私はあのジョークを小林信彦の本の中と、ウッディ・アレンの映画でW・アレン自身のせりふとして聴いたことがあるだけなのだ。記憶では「アニー・ホール」の冒頭である。YouTubeにはちょうどその部分の動画があった。
彼はそのジョークを引用する前に、こう言っている(22秒目から)。”The-the other important joke for me is one that’s, uh, usually attributed to Groucho Marx, but I think it appears originally in Freud’s wit and its relation to the unconscious. “「私にとってもう一つ重要なジョークは、通常、グルーチョ・マルクスによるとされているが、私の考えではフロイトの『機知-その無意識との関係』にオリジナルがあると思われるものだ」。
なんと、オリジナルはフロイトだと言う。こりゃチャンと調べねばなるまいと思って本棚を探すが、持っていたはずのフロイト著作集が見当たらない。前の前の職場に持って行って、辞める時、どうせ読みゃしないからと、そのまま置いてきたのだった。
仕方なく、記憶を探ってみるが、そんなジョークがあったような覚えはない。フロイトが引用しているのはユダヤ・ジョークばかりなので、あの手のパラドックスが仕込まれたようなジョークに似たものはあったかもしれないが。異端だったフロイトが、通常の医学会から入会を打診され、「私を入会させるような学会には入りたくない」と言ったと書いてあれば、かなり面白いけれど。
フロイトは、機知と言うものを、夢とか言い間違いがやるように、抑圧されている意識にうまく防衛機制のすり抜けをさせる作業だとする。抑圧に使うエネルギーが解放される快感を導く行為だというが、一方では欲動エネルギーを巧みに節約する原理だとも言うので、なんだかよくわからない。
エネルギーがうまく節約されるのが快感だったり、どっと解放されるのが快感だったりでは意味が通じないので、後には「生の本能」と「死の本能」のような、二つのエネルギー源泉を持ってくるわけだが、すでにこのあたりで準備されているわけだ。擬似的にエネルギー論の体裁をとっているだけなので、理屈がこんがらかっても仕方がないが、わかりにくいことこの上ない。
私は昔、ここに熱力学の理屈を持ち込めば、本能に二種類あるなんて苦しい言い訳はいらないと思いつき、欲動エネルギー論ならぬ欲動エントロピー論を展開しようとしたことがあるのだが、思いつきだけでは物事は進まず、結局そのまんま。
でも、人間の行動原理には、欲動の実現と言うより、欲動の陳腐化(≒エントロピー上昇)をどのように解決するのか、ということのほうが重要なのではないかと思って仕事をして来て、結構役に立ったような気はする。功なり名遂げて、そこで破滅を選ぶ人の気持ちは、少なくとも欲動理論だけからは理解しにくい。
元のジョークについて、検索では結局伝聞情報しかわからないが、ほぼ一致しているのは、グルーチョが実生活で某クラブに対して打った電報の内容ということだ。彼がユダヤ人であることで入会を拒んでいたクラブが、有名人になったために入会を許可して来たことに対する意趣返しで、それを舞台で決めジョークとして使っていたようである。
これとほぼ同じ言葉を記録に残しているのは、かのアブラハム・リンカーンであるという。「私は、私と付き合って満足しているような馬鹿な女性に満足することは出来ない」と言うもの。確かに、グルーチョ・ジョークの原型で、むしろ派生とされているものが原典ということになる。



1月 15th, 2009 at 5:55 AM
ありゃりゃ、リンカーン先生ですか。と云う事は、女性に関するこの手の派生はリンカーン先生から直接来ているのか、それとも、フロイトやグルーチョに一旦落とされて来ているのか、興味深いですねえ。
僕の一番初めの記憶は天声人語か何かのコラムでの引用で、初っぱなから引用臭い話でした。筒井康隆も確か似た事を言っていた気がするけど。
それから、実は「私を入会させるような学会には入りたくない」
というのは実際に聞いた事があります。ま、学会って色々ありますから、皆、似た様な事を考えるのでしょう。
1月 21st, 2009 at 1:28 PM
件のジョークの出所についてはwikiquoteに記載されています。
http://en.wikiquote.org/wiki/Groucho_Marx
* I sent the club a wire stating, “PLEASE ACCEPT MY RESIGNATION. I DON’T WANT TO BELONG TO ANY CLUB THAT WILL ACCEPT PEOPLE LIKE ME AS A MEMBER”.
o Telegram to the Friar’s Club of Beverly Hills to which he belonged, as recounted in Groucho and Me (1959), p. 321
* [Variant:] “Please accept my resignation. I don’t care to belong to any club that will have me as a member”.
o As quoted in The Groucho Letters (1967) by Arthur Sheekman. The sentiment predates Groucho, however; it likely originated with John Galsworthy, The Forsyte Saga, chapter II: Old Jolyon is said to despise the club that took him as a member after another refused him because he was in trade.
お役に立てば幸いです。