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美人作家は二度死ぬ

2009年2月15日 at 2:05 pm in 本・映画・舞台・TV | 7 コメント »

美人作家は二度死ぬ猫猫先生こと、小谷野敦氏の「小説」をはじめて読んだ。ネット上では悪意あふれる評価がくだされているのが目につく先生ではあるが、この小説に関しては結構好意的な記述が多い様な気がする。

実際、こんなに面白い小説を読んだのは久しぶりである。内容は「樋口一葉が夭折せずに天寿を全うし、文学史から忘れ去られた」世界を舞台にした、言うならばパラレルワールドもの。修士論文のテーマに、誰もかえりみることのない樋口一葉=山室なつ子を選んだ女子大学院生の日常記述を軸に、一葉の日記の現代語訳なども巧みに配置した内容である。

樋口一葉など読んだこともないので、その評価をめぐる様々な議論なんかが中心になっていたらちょっと困ったろうが、話はもっぱら「たけくらべ」を書いたとき、一葉は処女だったかどうかとか、過去のブンガクがセックスをどう記述していたのか、というような素朴な疑問を、かなりのオクテとして設定されている主人公が読み解く話になっている。

国文学研究者業界の内幕話もそこそこ書かれていて、もちろんそれは単なる暴露話ではなく、小社会内のミクロ政治メカニズムを考えさせてくれるものでもある。これをもっと赤裸々に、誇張して書けば筒井康隆風にアクの強いエンタメ小説になったと思われるが、そこは学究派の猫猫先生、抑制を利かせたものになっている。逆に、今後書かれる作品にさらなる展開が期待できると言えようか。

併録されている短編「純文学の祭り」は、近未来の文学賞選考会を題材にした、より赤裸々な内容になっている。やっぱり筒井康隆をご本人も意識しておられるのであろう。2027年、「文壇の長老」として君臨し、選考委員を長らく続けているのが、村上龍をもじった浦上龍だと言うのが傑作。彼の文壇サバイバル戦略をちらりと紹介しているのが、あまりに当を得ているので大笑い。

ほかに出てくる名前もすべてモデルがあるようで、私にはノーベル文学賞をとったとされる浦上夏夫が村上春樹なんだろうな、と思った程度で、他はほとんど判別できないのが残念である。本名にして欲しかったが、やっぱ、まずいんでしょうね。特に、文壇から追放された恨みから、選考会の日には雷雨を呼ぶという伝説となった女性作家って誰なんだろう。気になって仕方がない。

そんなわけで、小説として評価しているのか、業界内幕暴露を面白がっているだけなのか、自分でもよくわからないのだが、そう物語性もないのに、ワクワクしながらページをたどれる小説に出会うことは稀だと思う。猫猫先生のブログも、これでさらに目を離せなくなってしまったなぁ。

7 Responses to “ 美人作家は二度死ぬ ”

  1. # 1   Dr. Marks Says:
    2月 17th, 2009 at 1:14 AM

    >小説として評価しているのか、業界内幕暴露を面白がっているだけなのか、〔中略〕そう物語性もないのに

    いや、私などまったく小説の評価などわかりませんが、小谷野先生の「業界内暴露」は筋金入りですし、データは比較文学者としてご自分で掘り起こされていますので、そこが小説としても強みになるのだろうと思っていました。そして、私などは、小説家が見た登場人物の心の内と精神科医が診たものとではどれだけ相違と共通性があるのかが気になりました。(もっとも、精神科医は直接登場人物に会うわけはないので診断は無理なのでしょうが、ただ興味が…。)

    「物語性」の判断は難しいですね。ストーリーテリングといえば「筋の面白さ」なのでしょうが、漱石によれば、小説はどこから読んでもいいそうです。それは、聖書はどこから読んでもいいを思い出して愉快ですが、一生の人生の筋もあれば一日の生活の筋もあり、どちらにしろ「筋」がなければ面白くないわけで、webmaster先生が面白かったというなら、面白い物語だったわけではないでしょうか。屁理屈みたいですみません。

  2. # 2   小谷野敦 Says:
    2月 18th, 2009 at 12:49 AM

    ありがとうございます。『週刊現代』にもレビューが出て、これで少なくとも四人が面白がってくれたことになりました。一時は自費出版の覚悟までしたものです。かわいがってやってください。

  3. # 3   webmaster Says:
    2月 18th, 2009 at 8:07 PM

    これはどうも。著者ご自身から丁寧なご挨拶をいただき、恐縮です。これからの作品、期待しております。

  4. # 4   watanabe Says:
    2月 23rd, 2009 at 9:50 PM

    おもしろそうなので、読んでみることにします。
    アフィリエイトからは買いませんけど。

  5. # 5   岡田K一 Says:
    3月 16th, 2009 at 10:38 PM

    はじめまして。突然失礼いたします。こちらのブログ、愛読しております。
    コメントが遅れましたが・・。
    2/15の猫猫先生の小説「美人作家は二度死ぬ」のレビューの記事で(http://med-legend.com/2009/02/15/)、「『純文学の祭り』のモデルを知りたい」とお書きになっていらっしゃいましたので、参考までに・・私の推理を記入してみます。
    -豊島賞選考委員
    ?浦上龍:村上龍
    ?坂上広美:川上弘美
    ?戸川祥子:小川洋子
    ?竹村果林:松浦寿輝
    ?沼守重:阿部和重
    ?田中歌子:山田詠美
    ?生井考:町田康(?)
    ?絹川ふみ:綿矢りさ
    -壺井公隆:筒井康隆
    -花井元子:新井素子
    -無藤天羊:加藤典洋
    -浦上夏夫:村上春樹
    -宝井小枝子:?
    -来野世良子:笙野頼子
    -犬塚番作:大塚英志
    -山村岬:川村湊
    -桐島吾作:切通理作

  6. # 6   webmaster Says:
    3月 16th, 2009 at 10:58 PM

    岡田K一さん、どうもご迷惑をおかけしました。本来の場所に移動させていただきました。

    アマゾンのレビューも読ませていただきました。普通に日本語読解力があれば、ああいう感想になりますよね。

    一番目のレビューが、あまりといえばあんまりにひどい内容だったので、私も純粋にエンタメ小説として楽しんだという内容でコメントを書いたのですが、どうも酔っ払っていて操作を間違えたみたいで、掲載されていません。酔っ払い論旨の出鱈目ぶりに、アマゾンのほうで削除したのかも。

  7. # 7   HT Says:
    3月 18th, 2009 at 2:04 PM

    宝井小枝子は金井美恵子では?

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