ニセ記憶捏造は脳の得意技
しばしば「と」系の記事が掲載され、科学雑誌界の東スポとよばれる”New Scinetist”のWeb版最新号に”Brain wiring creates false memories“(脳の配線はニセ記憶を作り出す)という記事が出ていた。
仕事の場だけでなく、日常生活でもしばしば出食わす「擬似記憶」がどのように生まれるかという研究の紹介である。実際、これに遭遇するときは、誰がそれを主張しようとウンザリですからなぁ。対処の仕方までわかれば言うことないが、”New Scinetist”ではねぇ。
ざっと目を通せば、結構権威がある”Journal of Neuroscience”誌最新号の論文紹介であったので、眉に唾もつけずに元論文(ただし抜粋)も読んでみる。元の紹介記事とあわせれば、それほどの誤解はせずに済むかもしれない。
バルセロナ大学のルイス・フェンテミラ研究者とその同僚たちは、48人の学生を被検者にして、14種類の意味関連がある言葉の連なりを記憶させ、それを思い出させるという実験を行った。それぞれの言葉は例えば、座席、ソファ、テーブル、腰掛というようなものであるが、「椅子」という言葉は含まれておらず、これが「囮言葉」になっている。
言葉を思い出す際、囮言葉を挙げることが、いわゆる擬似記憶のモデルになると研究者たちは考え、囮言葉の想起と脳の活動部位の関連を調べることで、擬似記憶メカニズム理解の端緒になると主張している。そりゃちょっと単純化が過ぎるだろう、と言うツッコミは保留。
被検者たちは覚えた言葉を書き出し、続いてファンクショナルMRIを受け、脳のどの部分が主に活動しているかが観察された。その結果、囮言葉の想起には「上縦束」と呼ばれる大腦の前部と後部を結ぶ神経束の活動性亢進が関係し、正しい記憶については「下縦束」という後頭葉と側頭葉の間を走る神経束の活動亢進が関連していることが示された。
上の図のsup.longitudinal fasc.が上縦束、inf.longitudinal fasc.が下縦束である。解剖学的観点からは、上縦束のほうがはるかに量的に優性な神経束であることが判る。もし、フェンテミラ研究者たちの主張が正しいなら、脳は正しい記憶の想起より、ニセ記憶の捏造の方にその神経束構造の多くを費やしていることになる。
実際、物事をちゃんと記憶していることの方が稀なわけで、そんな時、適当な意味関連からあてずっぽとは言わないまでも、それっぽい記憶を引きずり出してくることの方が多いような気はする。そういう大胆な推断をいったん事実として受け入れる機能を作ったことで、人間は経験を踏まえた柔軟な行動指針を得られるようになったのではないだろうか。
それが少々先走りして、無かったことをありありと思い出すという、困った体験を根拠にして人を攻撃してみたり、変に傷ついてみたりする人もいるわけである。進化の過程で人が柔軟な思考を得る源泉となった脳機能特性なのに、むしろ頑なで強直な偽りの記憶がその同じ設計から生まれてくるのが皮肉である。
なんとか、ニセ記憶には「とりあえず」とか「差し当たって」というようなフラグが立つような設計修正をしていただきたいものである。といって、誰にお願いすりゃいいんだ?



7月 17th, 2009 at 2:53 AM
この手の偽記憶とは違うけど、類似の話として。
青年の頃って、記憶がはっきりしているので(幼児期の夢と現実の区別のつかない時期は別として)、こんなもんの混同なんか有り得ないだろう、って思っていたのですが、歳食って来ると、昔の記憶が曖昧になる一方で、類似の夢を(不安のある時は特に)見る回数が累計で増えるので、昔の記憶のどれが夢でどれが現実か分からなくなる事がありますが、これって、偽記憶って言うんでしょうか?
7月 17th, 2009 at 7:43 AM
>「とりあえず」とか「差し当たって」というようなフラグが立つような設計修正をしていただきたいものである。といって、誰にお願いすりゃいいんだ?
やはり神様でしょうね。
7月 21st, 2009 at 11:20 AM
記憶の捏造という意味ではより具体的な例が
http://kaoriha.org/nikki/archives/000619.html
に紹介されています。
R・デーケン『フロイト先生のウソ』(文春文庫)
7月 22nd, 2009 at 12:16 PM
私自身、かなり手の込んだ捏造記憶を経験した事があります。
http://med-legend.com/column/urbanlegend7.html#fake_memory
多少ネタを加えているものの、ほとんど実体験。
7月 22nd, 2009 at 3:09 PM
東寺ですか、ほうほう。僕も縁あって、京都の有名私立大学にいたので、東寺にも行ったことあったな。で、いい加減なお寺ではないでしょう^^。僕は、浄土真宗門徒ですが、それなりに雰囲気のあるお寺だと思ったはず。違ったかな。