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未だアスペルガー・ADHDを知らず

2010年1月27日 at 11:55 pm in 医学・科学一般, 日常・随想 | 6 コメント »

スミルノフ先生のブログでこういう記事が紹介されていたので読み、今でもこうした「社会が障害を規定する」というような考え方が生きているんだなぁと感心する。スミルノフ先生の論調は、それに対する「はてブ」コメントに、フーコーやら中井久夫についての言及がやたらに多い事への感想に移るのだが、全くその思いには同意するしかない。

ホント、疾患の社会性なんてテーマで中井やフーコーを出してくるってどんな連中なんだよ。お前らみんな人文社会系の研究者か、と言いたくなる。私も短い間医学部学生を教えていたことがあるが、そこそこの偏差値が要求される筈の医学生に、社会歴史関係の結構有名な学者の名前やその学説を紹介しても、当惑以外の反応が返ってきたことはない。

しょうがないので、症例として漱石なんかを出すがそれもダメ。大衆文学なら良かろうかと、大量殺人の関連で、横溝正史の「八つ墓村」を例に出してもきょとんとしている。連中には国家試験の問題集を覚えこむ以外の関心はないのである。当然、それが卒業後も続くわけで、医師一般の「教養」というものの平均値は、かなり低いと思ってまず間違いない。

もっともそれがまずいことかと言うとそうでもない訳で、臨床をちゃんとこなして行く上では、つまらん人文社会系耳学問なんぞはかえって邪魔になる事の方が多いと言えるかもしれない。ましてや、フーコーや中井久夫の場合、少なくとも精神医学分野においては、人間理解の一助となるよりは、素人系の勘違いを触発する危険の方が高いと思われる。

フーコーは確かに大学者であって、鋭い角度から近代が大前提とした幾つかの虚妄をえぐり出したが、だからそれがどうしたといえば、それまでの話なのである。社会制度としての差別とか、分離収容は確かに近代が完成させたものではあるが、その根拠となる「区別」はそれ以前なかったのかといえば、あったに決まっているわけだ。例えば、守られ指導されるべき「子供」と言う概念はヨーロッパでは中世以降に「発見」されたものであるが、それまではいまだ成長中の小さな人間がいなかったわけではない。

仮に、分裂病が近代制度によって作り出されるような底の浅いものであったなら、世の中苦労などない。おそらくそれは人類と言う知性を武器にした種が生まれたときにほぼ完成されたものであろうし、その源は生命の発生に遡るものだと私は思う。根拠ないけど、これは分裂病と言う、多様ながらある本質を共有する疾患を、長年眺め続けて来たことから来る実感である。正直いうと、駆け出しの頃は「近代が分裂病を生んだ」と思っていた。

一言で言えばそれは、エントロピー増大の原則に反して、秩序を精緻化させてきた生命現象の自壊というか、物理現象への逆戻りである。生命現象の極致とも言える精神機能が、歴史的構造的な秩序を失っていくというのがその本質で、その意味では老年痴呆も、オーバーファンクションとヒポファンクションを繰り返し、明らかに早めに疲弊に至る双極性障害*も本質は同じようなものと言える。(*躁うつ病は人格水準低下がないというけれど、コントロールが悪い場合、早期にボケる率が明らかに高い)

昨今、うつ状態患者の増加が喧伝されるのだけれど、一つには今までひそやかに社会活動からリタイアするだけだった人々が、治療機関が身近に出来たことで受診するようになったと言う面もあり、もう一つには診断の不必要な拡大によって、一時的不適応や人格的反応に対して不適切治療が施され、かえって回復を遅らせていると言う面があるのもまた事実であろう。 

話が拡散しすぎて、既に初めの意図を離れてしまい収拾困難になっているのだが、例に上げたADHDと広汎性発達障害についても話は同じである。確かに最近になってそれらが問題になってきたように「報道されている」のは事実であるが、少なくとも昔からこう言う障害は認識されていて、微細脳機能障害などと呼ばれていたこともある。それらの区別が、フィーリングでなく、一応の診断基準として示されるように成ったのも最近であるが、だからといって昔は無かったと言うわけではない。

要は、昔は単に理由は分からないが適応の悪い困った人だと思われて、ひどい場合は排除されたり隔離されていただけのこと。もし、時代や社会と言うものがこの「障害」を作ったというなら、彼らに少しでも適切な対処を用意しないといけないと言うコンセンサスが、その診断基準を精緻化(といって、そう判りやすいものではないが)してきたのである。

そもそも、精神科診断は病名をつけることより、何よりもその状態像診断をつけ、どのような治療的対応が出来るのかを重視するので、分裂病群にアスペルガーの一部がまぎれこんでいようと、あんまり関係ないのである。薬物への反応性とか、本人の疾患への構えが大きく異なる場合とか、個々に対処されるわけで、確定診断はほとんど象徴的なものに過ぎない。

当然ADHDとアスペルガー、他の精神的不調が入り混じることもあるわけで、なんか一つの診断がつけばすべて一本調子の治療が確定するようなことはない。勉強熱心なインテリ群には、その辺の曖昧さが、精神医学のいい加減さ無責任さと思えるらしい。

私の場合、30数年の経験の中で、アスペルガーと言うような診断をつけたことは二例しかない。以前、分裂病とされていた人に、アスペルガー類の発達障害要素をみて薬物調整して軽快した(でも結局転医してもとの黙阿弥になったけど)の例を紹介したことがあるが、その例と、あと一人は職場の同僚だった。この人には大きな破綻は無かったが、配偶者がいい加減参っていて、諦めてもらう手段としてそう診断するしか無かった。しかもそれにはあまり意味がなかったが。

ADHDに関しては、生活史の中のエピソードとして、「落ち着かない子供」であった話はしょっちゅう聞かされるが、今現在の障害として相談されることは、今まで一度もなかった。本人や家族はそういうが、診てみれば軽躁状態であったりする。たしかに、成人ADHDがあるので適応障害に輪がかかるのか、と思うような例はないではないが、そういう視点で診てなにかメリットが有るかというと、何も無い。

結局、十分理解できないので無視しているだけなのかもしれないが、まあ何とか治療は成り立っているし、別段不具合もない。真面目に考えている教養豊かな人々からすれば、なんといい加減なと顰蹙を買いそうだが、中途半端な知識が単純な事態を混乱に導くこともあるわけで、フーコーや中井に凝るのもいいが、彼らも出発点にしていた筈の「現象それ自体を真摯に眺める」と言う態度をまず保たれてはいかがかな、というのが正直な想いである。

6 Responses to “ 未だアスペルガー・ADHDを知らず ”

  1. # 1   石川 Says:
    1月 28th, 2010 at 9:38 AM

    つまらない職業人間になってはいけません。

    それに、現代日本は、貧鉄症が多すぎます。なのに、血はサラサラはやたら広まっているし。だいたい、ネット程度の適応障害みたいな性格は、ただの貧鉄であって、単純に、血が頭に上りやすいだけ。

  2. # 2   狼少年 Says:
    1月 28th, 2010 at 6:23 PM

    >だからといって昔は無かったと言うわけではない。

    確かに。「アスペルガー」「ADHD」と診断されている生徒より、同僚の方が「そうじゃなかろうか?」と思える方が多い。
    まあ、本人が困っていないのならば「障害」にはならないんでしょうね。

  3. # 3   webmaster Says:
    1月 28th, 2010 at 9:26 PM

    >つまらない職業人間になってはいけません。

    折角のコメントなんですが、意味が良く理解出来ません。「貧鉄症」ってのはなんでしょう?鉄道趣味が足らんということ?ってなワケはないか。

  4. # 4   西大路 Says:
    1月 28th, 2010 at 10:59 PM

    底の浅いコメントを一発アスペルガーとADHDその他発達障害等に関する知識くらいは持っておいたほしいなぁ。頼むぞ、医師を志す皆さん。

  5. # 5   小狸工房 Says:
    1月 29th, 2010 at 6:59 PM

    お客様に本物のシャンパンをいただきました。
    それはこちらへ置いといて、

    かつては「スキゾとパラノ」なんて分類もありましたが。

    >「近代が分裂病を生んだ」

    それならば、まさしく漱石でしょうか。
    生活環境の激変が精神疾患を生むというのは一理あるように思います。
    あまり喧伝されませんが、変換直後の香港でも、患者さんや暴行事件が多発したとも聞きますし。
    戦時中でも、どれほどのデータが黙殺されたことやら。

    家庭環境ゆえの成長障害か、先天的なものを拗らせるものか、論じたい点は多々ありますが。

    私の場合、幼児期から吃音、チック症、行動障害、皮膚炎、幻聴、胃腸障害と一通りやりましたので、いつか解放されたいものですが。

  6. # 6   さかね Says:
    1月 30th, 2010 at 1:58 AM

    webmaster氏の考え方というのはプロが仕事をこなすための当然の考え方なのですが。
    一般の人が障害とかかわるための考え方や、インテリの人たちが評論するための考え方とは次元や目的が全然違いますよね。

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