一円玉は拾うべきか?
「一円玉を拾うのに要するコストは、一円以上なので、道に落ちている一円玉は、たとえそれが自分の財布から落としたものであっても拾うのは損である」という意見がしばしば述べられる。これは本当なのだろうか。
ネットで「一円 拾う 得」と検索してみると実に170万件の記事が見つかるが、実際にコストを試算してあるものはそう多くない。ほとんどは収入からみた一円の重みについて、簡単な考察がしてあるだけで、要は価値観の問題だとするものが多い。
少数ながら、一円を拾う動作と近似したスクワットなどの消費カロリーから損得を論じたものがあり、それによれば一円を拾っても大したカロリー消費にはならず、利益の方が多いという結論になっているものが多数をしめる。
この消費カロリーから考察する議論の難点は、一円をカロリーに換算するところにある。例えば、国民平均月間食費支出で月あたりの必要カロリー総量を割るという計算をしている実証的な記事があったが、少々わかりにくい面がある。嗜好品の比率によって一円あたりのカロリーは大きく変わるので、もう少し確定的な指標が欲しい。
ここでは単純に米のカロリー/価格から一円をカロリー換算してみる。アマゾンで5kg単位で売られている米価格の中央値は2000円というところである。米は100gあたり356Kcalとされているので、5kgの米は356*50=17800Kcal、つまり、一円あたり約8.9Kcalということになる。
動作の消費カロリーの方は、多少違いはあるが、近似した動作として上の引用先が紹介していたこちらのページを援用すれば、一回のしゃがみ込み→立ち直りで0.54Kcalが消費されることになり、ゲインのほうが圧倒的に高いという結論になる。それは価値観の問題とかあるにせよ、少なくとも、「一円玉を拾うのはエネルギー収支からみて損」ということはないようだ。
この「一円玉拾い議論」の論法には、さらに少数派ではあるが、時間あたりの得失から考えるというものがある。落ちている一円玉を拾い上げるのに要する時間は5秒程度、無限に一円玉が落ちているとして(疲労もないものとして)、一時間それを続ければ3600秒/5秒=720円が得られる。つまり、一円玉を拾う動作を時給換算すると720円だと言うことになる。
この額は昨年度の全国最低賃金平均をわずかながら上回るもので、少なくとも一円玉拾いを社会的にみれば、トンデモなく効率の悪い行為ではないと言うことが出来るだろう。なんとなく誤魔化されたような気はするものの。
同じような疑問は世界どこにでもあるようで、日常的疑問に快刀乱麻の答えを出すことで知られているセシル・アダムズのコラム、”The Straight Dope”を見てみれば、1983年の記事に”Is it worth it to pick up a penny?“という項目があった。この質問に対してセシル・アダムズが使っている論法は「時給換算」そのもので、上と同じ計算から時給7ドル20セントになり、これは最低保障時給より高いのだから拾っとけばいいというもの。(実はこのコラムの英語表現は妙にくだけていて、私には意味がうまく取れないのだが、論理からすればそう言っているはず)
それと、いくら損にはならないとは言え、最低賃金すれすれの行為では、本業の効率を損ねるので損になるという意見もあるのだが、これはよく分からない理屈である。別に一円玉を拾ったからと言って、本業そっちのけでそれをやり続けることなどないし、別に本業の傍らそうしたっていい。ほぼ瞬間的な行為の価値を考察しているだけなのである。
そんな訳で、落ちている一円玉があれば、堂々とそれを拾えばよかろうというのが結論。10円、100円、千円札なら言わずもがな。法的側面はまた別の話。



6月 30th, 2010 at 3:38 PM
「わらしべ長者」…
水木しげる氏のマンガの中に
「道を歩くときには下を見て歩くんだよ、お金が落ちているかもしれないからね」
とありました。
十円玉を拾ったので最寄の派出所(当時)へ届けに行くと、
「感心だね、それじゃこれは僕からのご褒美だ」
と、届けられた十円玉を机の引き出しにしまい、自分の財布から十円玉を取り出して渡されると、子供心に釈然としないものを感じたという有名な逸話も。
十円玉一枚で飴玉(ザラメまぶしたでっかいの)が二つ買えた時代の話ですかね。
6月 30th, 2010 at 4:14 PM
現代日本においてはカロリー摂取よりカロリー消費のほうが高コスト(ダイエット薬/機器、フィットネスクラブetc)なんだからカロリー換算なら得しかないというべき
6月 30th, 2010 at 8:45 PM
bero様へ
>カロリー換算なら得しかないというべき
もう一歩進めれば、地金換算ではアルミの一円硬貨は2円以上の価値がありますので(通貨変造は重罪ですが)、道端に落ちているアルミ缶を拾って資源ゴミのダストボックスに入れておくのが最も経済効果の高い行為というわけですね。
カロリーは消費され金属資源は回収され町は美しくなると。
7月 1st, 2010 at 10:19 AM
“アルミは電気の缶詰”とばかりにW数で計ってさらにそれをカロリー換算するともうわけがわからなくなりますね。
7月 1st, 2010 at 1:04 PM
影様へ
>W数で計ってさらにそれをカロリー換算
それそれ、思考の遊戯ってものでしょう。
よく数学や物理の連中が茶飲み話にこうしたバカ数式を捏ね繰り回していますよね。
これは敬意を払っての揶揄ですよ。
7月 1st, 2010 at 8:44 PM
小狸工房さん、
> 地金換算ではアルミの一円硬貨は2円以上の価値がありますので
野暮を承知で申しますと、今のアルミ地金の相場は、200円/kg程度です。
例えば、日刊鉄鋼新聞のページ
http://www.japanmetaldaily.com/market/details/index.php#past_market
一円玉の質量は、1.0gですから、地金では、約0.2円になります。
一円玉を製造するのに、板材をプレス加工する費用も合わせて、工場原価が1円を超えているのではないでしょうか。
7月 1st, 2010 at 9:23 PM
mimon様へ
あっあっ、確認しました、製造コストを含めて1.6~2円ですね。
やはり空き缶を拾ってゴミ箱に入れるのがベストのようです。
余談w
http://kimagure-life.com/kouka.html
7月 2nd, 2010 at 2:23 AM
前屈運動をする口実になるから、運動不足の方々にはプラスにこそなれ、それが損であるという議論にはならないと思うのですが。
まあ、カロリー論という限定的な公理(宗教)の中でなりたつ議論なのでしょう。
それ以前に一円玉を廃止すれば良いのに、って思いますよ。銭が廃止されて最低単位が円になって60年余り、物価にしろモノの最低価格にしろ10倍以上になっているのに未だに1円を使うのは理にかなっていないんですよね。
7月 2nd, 2010 at 10:50 PM
>>それ以前に一円玉を廃止すれば良いのに
デノミネーションですか。
某将軍様の国で失敗しているのを見ると、正直微妙。
まあ、デフレ中の日本ではやりたくてもできないでしょうが。
7月 4th, 2010 at 5:23 PM
>デノミネーションですか。
全然違いますよ。ユーロを入れた欧州にもある制度で、例えばフィンランドでは1cent, 5centは使用してません。スウェーデンやノルーウェーでも最低貨幣がかさ上げになって、たしか1cent相当の貨幣はとうに法律で流通が禁止され、近い将来には5cent相当も廃止になるそうです。ところが最高紙幣はどこも100ドルなんですね。
1円5円を現金流通する事による経済の無駄(レジなど)は相当規模の筈で、それを無くす事による人件費の節約は無視出来ない筈ですが(まあ、今はプリペイドカードがあるけど)、何故か仕分けの対象になってませんね
7月 4th, 2010 at 9:10 PM
法律で流通が禁止されているって、例えば、フィンランドにおいては、フランスが発行した1セント貨幣10枚と10セントの商品の交換が出来ないってことですか?
(建前上)単一通貨であるユーロ圏内において、そんなわがままが通じるとは信じがたいのですが・・・
7月 6th, 2010 at 1:48 AM
>そんなわがままが通じる
1ユーロ未満は各国の裁量ですよ。銀行のみが交換してくれます。我が儘と云うなら、むしろ1centの存在を許したのが我が儘ではないでしょうかね
7月 7th, 2010 at 6:20 PM
日本語の情報ですが、例えば「地球の歩き方」のオランダのページを見ると、1セント硬貨の支払いを拒否されることはないと書いてありますが…
ttp://www.arukikata.co.jp/country/europe/NL_general_2.html
7月 8th, 2010 at 2:47 AM
そりゃ国が違えは法律も違いますって(ってこんなやりとり、管理人さんゴメンナサイ)。あと、使わない小銭を持っているのって旅行者に決まっているから、しゃあない、って感覚もあり得るかも。
7月 9th, 2010 at 6:27 PM
ですから、「法律で流通を禁止する=他国が鋳造した1セント貨幣については、自国内では法定貨幣としての価値を認めない」のと、「自国の裁量に基づき、コスト面ほかを考慮し1セント貨幣は自国では鋳造しない」とは、異なるものであると言いたいのです。
我ながら、細かいことを・・・と思わないでもないですが。
なお、さらに蛇足ですが、事業仕分けについて愚見を申しますと、あれは国の予算の執行を留保する行為でしかなく、予算の執行機関である行政庁の裁量の範囲内のものしか仕分けできません。(建前上は…ですが。仕分け人と呼ばれる方々がそれを理解しているかどうかは、正直微妙)
ご主張される小額貨幣の流通停止については、憲法29条第1項に規定される「財産権の不可侵性」との関係が微妙です。(スウェーデン丸めによって、本来貰えるべきお釣りが貰えない可能性が出てくる)
同条第2項により、公共の福祉目的により一定の制限は可能ですが、これは判例上、法律又は条例の後ろ盾を必要とします。よって、事業仕分けの対象とするには、内容が重過ぎてそぐわないのではと愚考いたします。
って、やりとりが脱線してますね・・・。私からもお詫び申し上げます<管理人様
7月 9th, 2010 at 7:08 PM
ここまで脱線しちゃっていいのななあ(管理人さん、本当にゴメンナサイ)。まあ、一円の価値の話なんで、法律論まで突っ込む気がないけど、日本は銭を廃止した事ある(銀行預金は銭まで計算してるし)から問題ない筈で、仕分けでやってくれると面白いなあという野次馬気分はありますよ。あと、僕はヨーロッパ各国の法律なんて知らないし、それをキチンを調べるぐらいに暇があったら国会議員選挙に出てますって(だって、そういう資料を持って、候補者公募に応募したら、民主も自民も考えてくれそうなきがする)。
7月 9th, 2010 at 9:21 PM
米軍の艦載機が飛んでくると、機上レーダーの撹乱のために無数の短冊状のアルミ箔が迎撃機から、ぱっ、と空中に撒かれるのです。
きらきら光って綺麗だなぁと眺めていると、やがて地上に落ちてくるので、それを拾って駐在所に持ってゆくと、おうおう、愛国少女だと褒めてもらえるのでした。
本当にあの戦争はなんだったのかしらねー、と道端に落ちているアルミ缶を見て母が。
というわけでやはりアルミは拾いましょう。