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最近、ごく普通の医学雑誌になってしまった感のある"The British Medical Journal"で、ここしばらく引用することもなかったが、この20日に発行されるクリスマス特集号は久々の圧巻である。私の医学センスなどは軽く飛び越えた大論文がメジロ押しで、どれから紹介していいか迷うほどだ。
さしあたっては小品から、というわけで「彼らの心はいつまで続いたか?タイタニック事故から」("How long did their hearts go on? A Titanic study ")をまず紹介したい。外傷性ストレス体験がその後の健康状態に影響し、その体験者の余命も短くなるという説に対する検証を意図したものであるが、その題材に、かのタイタニック号の沈没事故(1912年4月18-19日)を用いている。
題名の"How long did their hearts go on? "は、97年の映画「タイタニック」の主題歌、"My heart will go on"をもじったもの。論文の中にも、タイタニック号の事故を扱った、他の映画の題名をうまく盛り込んであったりするような遊びが見られたりする。著者はカナダ、マックギール大学の疫学教室の教授と学生たちである。
著者たちは乗客情報を、"Encyclopedia Titanica"というウェブサイトから得ている。タイタニックの乗客やクルーたちにかんする、最も正確な情報を集めているところなんだそうである。そこから500人の生存乗客のリストを得て、435人について追跡調査が行われた。といって、彼らの生年月日とその死亡年齢をたしかめて、1912年から2003年までの、事故のあった日における彼らの生存率を計算しただけのことなんだけれど。
1等と2等乗客の大半は米英国人で、3等乗客はヨーロッパから米国への移民であった。この構成に対して、その社会背景も換算した対照グループを得るのは難しかったため、次善の策として、当時の米国とスウェーデンの統計から、タイタニックの生存者とほぼ同じ年齢と性割合をもつ2グループを作り、比較した。
そうして作られたのがこのグラフである。一見して明らかなように、乗り込んでいた等級とも関係なく、タイタニック号生存者のその後の生存率は、対照グループとほとんど差が見られず、わずかではあるものの、高い傾向すらみられる(統計的に有意なのは1等と2等の女性乗客だけ)。
論文の最後は映画「タイタニック」への言及で結ばれている。「生存者たちはその後の人生が一般と比べて短かったわけではないが、主題歌の歌詞のように、いつまでも続くというわけにもいかなかった」。少々強引かつ恣意的なデータ収集が目立つとはいえ、ごく常識的結論に至ったといえましょうか。
投稿者 webmaster : 2003年12月19日 21:48