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2004年5月 9日  めまい [医学・科学関連]

朝目覚めて起きだそうとしたら、強い回転性めまいを感じてひっくり返りそうになる。フトンのうえで半座りになったとき、首をぐるりと回したのが引き金になった。数年ぐらい前から、時々こういうめまいが出て、いつの間にか治ってしまうので、そう気にもせずほっぽっているのだが、ひっくり返りそうになる程ではなかった。

めまいの訴えというのは、プライマリィケアの場面でしばしばお目にかかるものだ。症状が激しいときはまるきり身動きもできなくなるし、パニック発作と同じような不安喚起性も強いため、夜中に救急車で受診する例も数多い。ごく稀ではあるもの、脳血管発作やら脳腫瘍というような命にかかわる疾患であることもあって、CTやらMRIやらを大騒ぎでとったりするが、まあ、滅多にそういうもので異常が見つかることはない。

めまいを起こす病気には、有名なメニエール病というのがあるが、定型的な耳鳴や難聴をともなう例はそうあるわけではない。仮にそう診断を受けたとしても、その治療は結局対症療法に終始するしかなく(私の知らない先端医療もあるかもしれないが)、さまざまな治療的工夫がなされている割には、患者側の顧客満足度は低い場合が多い。

大概の場合、患者さんがめまい発作で転がり込んでくると、メイロンという7%重曹水を点滴し(不思議なことに、これが診断などと関係なく、その場限りながらよく効くのである)、2~3種類ある抗めまい剤を処方し、「専門医に相談してくださいね」といって紹介書つきでお帰りいただくという対応になる。しばらくしてしてまた発作をおこしてやってくるので、専門医はどういっていたのかとたずねると、同じ薬を出されただけだったので通うのをやめた、というような返事だったりする。

もちろん、以前から中耳や前庭機能にハッキリとした異常がある場合などは、専門医に任せるしかないのだが、そんな場合は患者さんのほうがすでにエキスパートになっているから、対症療法漬けにしてしまい、正統治療を受ける機会を奪うようなことはまず起こらない(と思う)。

私の場合、プライマリィケアの場面でめまいに接するだけでなく、結局定型的な症状や所見を示さないため、通り一遍な対応ばかりされて患者側がブチ切れてしまったり、身体科医のほうが匙を投げたような例をよく診させられる。身体に悪いところがないのだから、アタマのほうの問題だろう、というのである。これは心身相関ということに対する完全な勘違いであるのだが、そこそこ仕事しているフリしておかないといけない立場では文句もいえず、おとなしく診させていただく。

というのは、定型的なメニエールとか、エプレイ法というかなり効果のある治療手技が一般化してきた良性頭位性めまいのような、ちゃんと身体的な理屈がつけられるものではないタイプのめまい症状は、いくつかの点をチェックして臨めば、かなり簡単に治療(というか、症状のコントロールだけど)できるのである。

いくつかの点というのは、「これは身体だけの問題ではないようだから、精神科なり心療内科で診てもらいましょう」という身体科医の説得を受け入れる、というのがひとつ。困り抜いて藁をもつかむ気分になっているか、自分でも身体的レベル以外の困難があることを自覚している場合である。

その次は、実際にめまいがきっかけであれ、そうでないにせよ、不眠とか食思不振が強く、なにより、めまい発作そのものというより、それが起こるのではないかという不安がメインの問題であることだ。いわゆるうつ症状の合併があればどんぴしゃであるが、必ずしもその必要はない。

大概の場合は身体科医がすでに抗不安剤を処方しているが、それだけではまず改善しない。気の利いた人の場合、SSRIを処方していることもあるが、これもまず効かない。むしろ、飲みはじめに出ることの多い消化器症状のため、余計に訴えが複雑化していたりする。

もったいぶる事も無いのでばらしてしまうと、身体的所見を欠きながら遷延するめまい感に対して著効するのは少量のスルピリド(ドグマチール®、アビリット®)である。50mgから150mgまでの使用量で充分で、少量の抗不安剤、もしくは抗ヒスタミン剤との併用が効果を高めることが多い。一般的な抗めまい剤との併用でも問題ない。

もともと吐き気止めの効果が強い薬で、なんらかの中枢性の効めまい作用があるのだろう。スルピリドはほかにも、車酔いといった動揺病にも著効を示すが、あまりそういう目的でも積極的に使う人を見たことがないのが不思議である。トラベルミンだのなんだのより、こちらのほうが圧倒的に効くんだけどな。

スルピリドという薬は、私が研修医になった年に日本で認可されたので、なんとなく親近感がある。胃潰瘍、胃炎からうつ病、分裂病という適応疾患を持つ不思議な薬で、私は自分の診ている患者さんの6割ぐらいにこれを処方しているような気がする。この薬には猛烈な食欲促進作用があり、体重が増えるほかにも、乳汁分泌とか生理がとまるとか、結構副作用があるのが欠点であるが、そう深刻なものは少ないので、実に使いやすい。

私が使っているように、精神科薬物治療のメイン薬剤となってもいいと思うのだが、そういうのは少数派なのが不思議である。まるっきり鎮静作用がないのと、単味での使用では今ひとつ標的症状がはっきりしないのがいかんのだろうな。でも、寡症状の慢性分裂病で、微妙な脅かし体験だけが続いているような人なんか、絶好の投薬対象なんですけどね。

それは兎も角、精神症状というほどのこともない遷延性めまい感に対するこの薬の効果はかなりのもので、そもそも海外では「抗めまい剤」として使われているのに、国内では適応疾患にはないし(しかたなく「うつ状態」の診断名を追加する)、そもそもそういう報告をみないのが面妖である。

なぜか添付文書の副作用欄に「めまいがでることがある」なんて書いてあるので、めまい患者にこれを処方しているのをみた他科のDr.が、親切にも「これは飲むな」なんて助言してくれることもある。このスルピリドに対する無理解は、精神科、身体科を問わず、日本医療七不思議のひとつであろう。あとの六つは今ちょっと思い出さないが……、あれ、このフレーズどこかでつかったような。

ところで私自身のめまいはいわゆる良性頭位性めまいの範疇に入るようで、朝からヨガの行者のごとく、エプレイ法のポーズを何度も繰り返したら治ってしまった。スルピリド服用で、例のアトキンス・ダイエットのささやかな成果を、台無しにすることもなさそうで一安心。

めまいに関するまとまった解説というのは案外少ないもので、ここ(PDF)なんかは比較的まし。専門家向けだが、一般的にもわかりやすい(かも)。エプレイ(Epley)法に関してはこちらを参照。

投稿者 webmaster : 2004年5月 9日 23:53

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