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警察庁の発表によれば、昨年2004年度のわが国の自殺者数は3万4427人であったという。毎日新聞の記事によれば、いままで不景気期に一致した58年と86年にピークがあったものの、減少傾向が見られていたのに、90年にはいって増加に転じ、総数が3万人を越えるのはこの6年連続であるらしい。
デュルケームの「自殺論」を引くまでもなく、自殺と社会的規範の解体とは深い関連があると思われ、経済的不況による生活基盤のゆらぎがその原因となるのも了解できるところである。警察庁の統計も90年からの自殺急増の主因を不況と位置付けているようであり、毎日の記事もそれを踏襲しつつ、「人生を勝負事や他人との競争とはき違えるような風潮が広がっている」というような、価値観の問題にもっていくような論調を使っている。
ま、そのあたりはなんとなく納得できないわけではない。「勝ち組」めざすばかりの貧弱な価値観なんか、ちょっとした拍子に破綻してしまうのもそのとおり。「生きる喜びや生命への慈しみ」を大事にして、弱者に手をさしのべる「社会の母性」を育まにゃいかんのだという笑っちゃうような主張にしても、とにかく何かいったことにしないとイケないときには、この程度のことで誤魔化すしかない内容であろう。押し付けがましい管理社会はカンベンしてくれよな、とは思うけど。
私がいまひとつ納得できないのは、精神科関連疾患との関連である。毎日の記事では「自殺者の多くが心の病気におかされている」とさらっと書いてあり、これはほかの報道や統計などでもそういうことにされている場合が多いのだけれど、これは本当なのだろうか。精神科疾患に自殺が多いのは確かに事実である。でも、精神科疾患はそんなに増えているだろうか。分裂病なんか、人類発祥以来一定の割合で発病していると思うし、うつ病にしても、少なくとも躁うつ病の発生率はそう変わらないはずである。
WHO分類でいう「大うつ病」や「気分障害」をとれば、事例として医療が対象にする件数は増えていると思うが、実数はそんなに変わるはずがないがなぁという気がしてならない。そもそも、簡単な統計だけを論拠にしても、うつ病者が自殺者の底辺になっているという主張には、どうもまずい点があることを指摘できるのだ。
というのは、自殺はまずほとんどの国で男性に多く、女性に少ない(2000年の日本で3倍弱)。ところが、うつ病に関していえば、女性のほうが発生率は高いのである。統計にもよるが、平均して約2倍強と言うところだろう。これをどう解釈したらいいだろう。女性のほうがいろいろと抑圧がつよく、症状が出やすいので症例は増えるが、男性の場合はぎりぎりまで発病しないので、いったん具合が悪くなると重症化しやすいのだ、というような説明もあるのだが、どうもあと付けの強弁くさい。
どんな文化にも見られる、男性は力強くなければならないというマチズモの問題としてこれは説明されたりするが、それなら病気の問題はどこに行ったのだということになってしまう。女性の場合はうつ病になりやすく、手厚く治療されるために、むしろ自殺の機会はへるのだという、精神科医療の赫々たる成果といえるならうれしいのだが、まずそれはないだろう。女性の自殺率の低さは、医療充足率などと全く関係なく、世界中で見られるからである。
そんなわけで、マスコミレベルで語られる「精神科医療の充実」で自殺がへるという期待には、正直いって多少の疑義がある。まして、DSM-IVで大雑把に診断し、SSRI投与してあとは野となれという精神科医も多く見受けられる現状で、自殺予防一般に関して、どこまで問題解決ができるかは少々心もとない。
もちろん、精神科医療機関の敷居が低くなるのは悪いことではない。でも、精神科医の皆さん、ホントにそういう人たちが押し寄せてきたら、彼らに充分なサービスを提供できる技量がありますかねと、意地悪な質問をしてみたくなるのも事実なのである。
参考資料
「平成10年(1998年)以降の自殺死亡急増 - 自殺予防対策のための自殺死亡統計 -」国立保健医療科学院
"Suicide rate - gender ratio "nationmaster.com
投稿者 webmaster : 2004年07月25日 23:52
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