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2004年08月16日  魅力の知覚に及ぼす名前の影響 [医学・科学関連]

近代言語学の基礎をつくったソシュールは、言葉を形成する音素の連なりと、それが示す概念との間には本来何の関係もないということを「発見」したのだそうである。「いぬ」という言葉と、あのキャンキャンいう動物との間には必然的な結びつきなどなく、音素の集合がつくる体系と意味される側の物事の対応関係があるだけなのだと。

素人にすればそんなものかと思いつつ、なんとなく腑に落ちない感じは付きまとう。ましてや言霊の力などを信ずる人には受け入れにくい話であろう。かの吉本隆明も、そういう素人の一人であったらしく、これに関して「言語にとって美とは何か」という、かっては自称インテリ必読とされていたトンデモ本を書いている。

私も昔読んだ覚えはあるのだが、言語以前の内発的な感動を示す歓声とか吐息が言語として発展していくことだってありうる、というようなことが書いてあったような、そうでないような。初めて海を見た人間が、その広大さを目にして「うっ」と息を呑む、それが「ウミ」という言葉につながった、なんて書いてあったんじゃなかったかな。当時、感想代わりにつくった川柳が、「クロマニヨン 海見て ムムっと腰抜かし」。

それはともかく、発せられる言葉そのものが記号としてではなく、それ自体何らかの意味を持つという考えは人の心をとらえて放さないものらしい。密教真言なんて、まさにそれを突き詰めたものといえるだろう。知覚科学をやっている人にも、そういう方向での研究というのは魅力的な物らしく、今月11日、NewScientist.comが伝えるMITの脳知覚科学部門の言語学者、Amy Perforsの研究もそれを追及したものといえる。

彼女たちはhotornot.comという一種の出会いサイトに、24人の男女の顔写真を間をおいて投稿した。写真には、母音や子音の種類、ジェンダー親和性などを考慮した名前が書きこまれていて、閲覧者が発信する10段階の評価を統計的に比較検討するというのが実験内容である。(同じ写真にランダムに別の名前をつけて投稿したのか、という点が記事を見ても元レジュメ(PDF)をみてもよくわからんのが難点。どうもそうではないらしいが。)

その結果、男性においては前舌母音(日本語とは多少違うが、あえていえば「あ」「い」「え」)の名前の持ち主が、後舌母音(同様に「う」「お」)の持ち主よりも、有意に高い評価をえた。例えば、ポールよりはマットのほうが好まれた。そして女性の場合は、男性の場合ほどではないものの、やはり有意にその逆の結果が得られた。ベスよりはスージーのほうが評価が高かったのである。

子音でも、閉鎖子音(p音やb音なのかねぇ)と共鳴子音(たぶんl音だとおもう)で、男性の場合前者が好まれ、女性の場合はその逆という結果が得られたが、母音の場合ほどはっきりしたものではない。著者たちはこの実験をもって、ソシュール言語学の基本的な主張、意味するものと意味されるものとの恣意性という前提に、限定的ながら実証的に反論したとする。

名前なんかはやりすたりがあるしね。芸能人とかの連想もあるだろうから、母音と子音の部分だけは考慮した、ランダムな名前でもつくって実験しないと意味がないのでは、と思ってしまう。例えば日本人の名前を使うぐらいの工夫しないとマズイのではないかな、というようなツッコミは容易であるものの、言霊の力に魅せられ、それを究明したい人はどこにもいるのだと感心させられる研究であろう。

そういえば、私の戸籍名は完全に後舌母音だけで構成されておりますわ。改名したほうがいいかもしれないと、前舌母音だけの名前を考えてみたら、いいのがありました。当サイトお勧めの魅力たっぷりの男性用究極前舌母音名前は、「袈裟吉」、これですよ。

投稿者 webmaster : 2004年08月16日 23:27

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