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2004年10月04日  目の前にゴリラ [医学・科学関連]

gorilla_s.jpg2004年度イグ・ノーベル心理学賞受賞論文。この論文は"inattentional blindness"「非注意性盲目(PC的観点からも、あまりさえた訳語とはいえませんな)」という認知上のピットフォールについて検討したもので、要は「注意が向いていないと目の前にあるものも見えない」という、大概の人が経験していることを確かめるという実験研究であるのだが、その実験設定がなかなかハジケていることから受賞に至ったのであろう。(元論文全文。PDF)

著者たちは、70年中ごろから行われてきた非注意性盲目についての先行研究レビューから論をおこしているのだが、ビデオ画像内のゲームを観察させながら、予期しない要素を被験者が正しく発見するかどうかという実験設定が中心のそれらの研究は、正直いって辛気くさいばっかで、そんなもの気がつこうがつくまいがどっちでもいいぞといいたくなる。著者たちも同じ感想だったようで、それらと全く同じ枠組みに依拠しつつ、よりツカミを重視した実験計画を立てるのである。

彼らは228人の大学生を被験者にして、16の条件に分けられたビデオ映像観察の課題を出す。それらは白と黒の衣服で区別される3人のプレイヤーからなるチーム同士が、バスケットボールをパスしあうゲームの75秒の映像である。被検者にはどちらかのチームのパスの数を記憶するように言い渡される。その際、パスすべてを数える簡単コースと、バウンドパスとエアパスを区別する複雑コースの二つの課題がそれぞれ別の被験者に与えられる。

そのゲーム映像には二種類の「予期せぬ場面」が3分の2あたりに挿入されていて、それは一つは女性が傘を開いてプレイヤーの間を歩くのと、もうひとつはゴリラの着ぐるみをきた女性が通り過ぎるという場面である。それぞれの映像には普通のバージョンと、背景にプレイヤーと非予期要素が重ね焼きされた透化バージョンが用意されており、それぞれについて簡単コース、複雑コースの課題が用意される。なお、一人の被検者には一種類の課題しか与えられない。言葉でいうとわかりにくいので、こういう4種類の映像があるとしめしておこう。

こうして、チームの白黒別、パス数え上げの簡単、複雑別、映像4種類という16種類の課題をこなした被検者の答えから、ネタをしっていたり、答えを間違え、明らかにパスのほうに集中していなかった人の答えを取り除き、残りの192の被検者に、はじめに与えられた課題以外の予期しない場面があったかどうかをたずねる。

その結果、傘女、ゴリラ両方の非予期場面を正しく見ていたのは、全体で54%であった。正答率は透化モード、複雑課題、白チームに注目したグループのほうでより低く(一部例外あり)、場面では傘女よりはゴリラのほうがよりわかりにくいという結果になった。例えば、白チームを観察していたグループがゴリラを認める率は、簡単、複雑タスクともわずか8%であった。

著者たちは、傘をもった女性の場合は他のプレーヤーより識別因子が高い位置に来ることや、ゴリラの場合はより基本映像からのコンテキストが外れることからこの結果を説明している。また、非注意性健忘という機序でも同様な結果になりうることを指摘しつつ、記憶の場合、異なった認知をあえて忘れるというのは考えにくいと結論している。

というわけで、人がゴリラの着ぐるみ姿であらわれようと、それを予期していないと見えるはずのものも見えないというのがこの実験の主張。わざわざ別のものにミスリーディングしておいて、ほら見えないでしょ、というのはかなりフェアでない気もするが、そのあたりの香具師系語り口と、ゴリラという道具立てが織り成すかぐわしさが受賞理由というところか。

Simons D."Gorillas in our midst: sustained inattentional blindness for dynamic events";Perception, 1999, volume 28, pages 1059-1074

投稿者 webmaster : 2004年10月04日 22:15

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