« サッカー観戦 | メイン | コカ・コーラの利用法 »
今月3日に発刊された"Jurnal of the National Cancer Institute"(国立ガン研究所雑誌)に、"Fruit and vegetable intake and risk of major chronic disease."(果物と野菜摂取と主な慢性疾患危険性)という論文が掲載された。その内容は「果物と野菜摂取はガンを予防しない」という、以前からの常識を打ち破るもので、その論文が掲載されているのと同じ号に、反論というか疑問を差し挟む編集者の意見が載ったり、わざわざ報道向けにバランスを取ろうとするようなメモがくっつけられていたりする。
いままでさんざん「ガン予防のために果物と野菜をとろう」と、専門家とその周辺が主張し続けていたものの、それにはそう根拠などないというのには皆うすうす気がついており、単に予防医学の名で人をコントロールしようとしているだけではないかと批判する専門家だっていたのである。その辺の痛いところを統計的な手法でついてきたので、通説に従ってきた人たちにとっては、ちょっと釘を刺しておかなくてはマズイということなのであろう。
この論文は台湾出身で歯科医師から公衆衛生に転じ、現在ハーバード大公衆衛生学教室と高雄医大両方に籍を置く洪信嘉博士とその同僚たちによって書かれたものだ。彼らは7万人あまりの看護婦さんと、3万7千人の男性医療従事者の健康調査データをつかい、1986年を基点とし94年まで、心血管系疾患とガンの発症、他疾患での死亡をイベントに設定した8年間の前向きコホート研究を行った。当然、開始時にそれらをすでに発症していたデータは除かれている。
その結果として、この11万人近くの調査対象群には、8年の間に3600例あまりの心血管系疾患と、約9000例のガン発症、そして約1500の他疾患や事故による死亡が見られた。これらのイベント群と、開始時に行われた半定量的調査による食生活パターン群との相関を見るというのが大雑把な研究手順である。この研究グループが出した結論は、果物や緑色野菜を大量に摂取する群はわずかに心血管系疾患の発症が減る傾向が見られるが、統計的には有意とは言えず、ガン発症に関しては全く無関係であったというもの。
いままでガン予防のため、果物や緑黄色野菜を取れといわれてきたのには全く根拠がなかったかというとそういうわけでもなく、もっぱらガンにかかった人の食生活とコントロール群を比べるというケース研究からそう言われてきたのだが、たまたま典型的な発症例を軸にするという、きわめてバイアスがかかりやすい手法なのである。ちょっと時間がたったら症例に加わるかも知れない発症スレスレ例などは考慮しようがないし、食生活の評価というのも事後に行うので事実を本当に反映しているかどうか疑わしい。
その点、この前向きコホート研究ははじめに設定した条件と期間内のイベントの相関を見るので、バイアスが入りにくい(入らないわけではない)のである。これがまれな疾患だったりすると、調査群をかなり巨大にする必要がありコストも大変だが、今回の10万という対象群の大きさとイベント回数は、かなり適切に考察が行える規模であろう。医療従事者を対象に選んだという点で、ちょっと過剰な食生活改善努力がなされているかもしれないが、「紺屋の白袴」という面もあるので、相殺されるような気もする。
日ごろ、自分の患者さんには「好きなもの食べるのが一番」と、ほとんど食生活指導なんかやらないので(80、90になって、いまさら「体にいいもの」食っても仕方なかろう、というのが本音なんだけど)、この論文内容はなかなか我が意を得たりと思うところ大である。全く食わないというのと、病的過食以外に医療が介入することなんかあるかねぇ。自分の好きなうまいもの食って、それで仮に早死にするならそれも人生でしょ。
実はガンと緑黄色野菜についてのコホート研究というのは数少ないながらやられていて、その時も同じような結果だったはずなのである。これでどんどん同様な研究が進み、今までの説の誤りが実証されるとともに、小姑の嫁いびりみたいな「食事指導」もついでに一掃されたらいいのにな、とかなり真剣に思う今日この頃。
なお、元論文そのものは金を払わないと読めないので、読んだのは抜粋だけ。別のサイトのかなり詳しい逐行的解説を読んだので、まず内容ははずしていないと思うが、抜粋なんか仕方なく書いているだけで、元論文とまるっきり反対の内容だったりするという指摘を某専門家から受けたことがあるので(その人はそういう論文書いてるということなんでしょうな)、その点は多少の留保をつけておきたい。
"Fruit and Vegetable Intake and Risk of Major Chronic Disease";Hsin-Chia Hung, et al:Journal of the National Cancer Institute, Vol. 96, No. 21, 1577-1584, November 3, 2004
投稿者 webmaster : 2004年11月07日 23:41
このエントリーのトラックバックURL:
http://med-legend.com/mt/mt-tbcba.cgi/258
このリストは、次のエントリーを参照しています: 果物と野菜摂取はガンを予防しない?:
» !野菜ってそんなものなの? from 眠い麻酔科医のblog
何でも果物と野菜摂取は癌を予防しない?らしいそうな
! だから、肉食っとけ!って言い出すのはうちのオヤジだな。
まあ、野菜にそういう予防効果があるって言... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2004年11月09日 22:33
» これはヒドイ from TightShow.net
医学都市伝説というWEBLOGをよくチェックしているんだけど、「うわぁ・・・これ... [続きを読む]
トラックバック時刻: 2004年12月20日 02:47
これ,半分,冗談で読んで欲しいのですが,
数十年にわたって,精神病院に入院している人は,
がんの死亡率が低いような気がするのですが…
喫煙率,受動喫煙率が非常に高いのに,肺ガンでさえもあまり見かけない.
専門医に進行ガンと診断された人も,
手術の同意が得られずに経過観察していると,
いつまで経っても,一向に進行しない.
ある医師曰く,やっぱり頭使っていないと,ガンにならないんだなぁ.
だれか,研究してくれませんか.
投稿者 同業者 : 2004年11月11日 01:16
毎日 お昼の12時からのテレビ番組、みのもんた司会の《おもいっきりテレビ》を毎日見ている たくさんの“お嬢様”(実はおばちゃん)達は ”癌と食生活とは関係ない”なんて言っても 多分信じないと思いますね。
長年の みのもんたさんのお説教ぽい 解説を聞いて、「なるほど」とうなずき、健康食といわれる物を摂取するように、晩のおかずを考えている おばちゃんがどれだけいるか ご存知ないのでしょうか?
「癌」にならないためには “きのこ類”“緑黄色野菜”バランスの良い食事を摂って、免疫力をつけたほうが 良いのです。 ――みのもんた の教えは 永遠です――
投稿者 藍i : 2004年11月11日 01:02
おお、わざわざそこまでされているとは。勉強になります。
「都合のいいデータだけ抜き出す」危険性についてはいつも気をつけておくべきですよね。わたしはJAMA users' guideに頼っていますが、まあ全ての論文をこれに従って読んでいくわけにもいかないわけで。結局その論文がのった雑誌の信用度からその研究の信用度を判断してしまいますね。いかんとは思っているのですが。
投稿者 Aspirin : 2004年11月09日 01:56
いま関連論文を斜め読みしているところですが、90年代まではガン抑制に効果ありというものが多く、だんだん否定的なものが増えてきているという印象です。でも新しいコホート研究でも肯定的なものはあります。
やはり、臓器別に見ると発症例が少なくなって、統計的処理が恣意的になりがちですね。といって、「ガン一般」というような紹介した論文のようなまとめ方が出来るのか、というのにはちょっと疑問なところがある。
紹介したハーバードの論文につかわれている医療従事者のデータはかなり使いまわされていて、どうもそのたびごとに都合のいいデータだけ抜き出しているような気がするのですが、これは下衆の勘繰りかも。
投稿者 webmaster : 2004年11月08日 23:26
坪野吉孝氏のサイトなどを読むと、もとより良心的な予防衛生学者は果物や野菜には否定的見解をもっているのかと思っていました。
ただ、海外の最近出た野菜と癌に関する研究はほとんどが野菜摂取の効果に否定的で、今回に限ったことではない気もしますが?
投稿者 Aspirin : 2004年11月08日 00:21