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2004年12月06日  七面鳥とトリプトファン [都市伝説・デマ・トンデモ]

日本ではまだ、感謝祭やクリスマスに七面鳥を食べるという風習までは完全に移植されていないので、少々疎遠な通念というか、ある種の疑似科学的噂話が存在することはそう知られていない。欧米の人間がよく言うのが、「七面鳥には必須アミノ酸であるトリプトファンがたくさん含まれていて、それが脳の中でセロトニンに合成されて抑制作用を示すので、七面鳥を食べるようなパーティの後では眠くなる」という一見科学的な理屈である。「気分を盛り上げてハッピーにさせてくれる」というような、かなり前向きな言い方になることもある。

いわゆるサプリメントの売れ行きでも、七面鳥に多く含まれるトリプトファンという奴は結構向こうでよく売れていた。20年ほど前だったろうか、日本でつくられたトリプトファン製剤に不純物が混じっていて薬害事件を起こした事があり、トリプトファンそのものにも多量に取ると不具合があることが指摘され、サプリメントとしての使用は下火になっている。一時、私も遷延性のうつ状態の人に欧米論文を根拠にしてこのトリプトファン製剤を使っていた事があったので、かなりあわてたものだ(その薬は当時「エルトリップ」という名で保険適用されていたが、今は保険適用を外されている)。

最近主流になっているSSRIという新しいタイプの抗うつ剤も、神経接合部でのセロトニン再取り込みを阻害し、その濃度を上げることでセロトニン作動性神経経路の活動性を高めるというのがうたい文句である。この薬が開発されるまでには、欧米でのトリプトファン-セロトニン効能へのある意味神話的な期待が背景にあったのではないかと思うほどだ。あまり同僚たちは言わないが、私はこのSSRIという薬は日本人にはあまり効かないと思っており、事実これを飲めばうつ病の悩みからはおさらば出来るかのようなTVCMがなされている割には、これを延々と飲まされながらさっぱり改善しない人が山ほどいる。

大体、トリプトファンは必須アミノ酸ではあるが、日本人が主食にしている米に結構含まれている。率はたいしたことないが、米消費量のことを考えれば、必要十分のトリプトファンはそこから取れたはずで、いまさら七面鳥などでおぎなう必要なんかない。普通は肉やナッツ類に含有率が高いといわれるのだが、絶対的摂取量のことを考えれば、どちらから取るほうが合理的かはなんともいえないと思う。肉をたっぷり取る欧米人がさらにトリプトファン摂取にこだわる理由もようわからんのだが、もしかしたらトータルでの摂取量は我々のほうが高いのかもしれない。

確かに七面鳥が出てくるようなディナーを食べていればそのうち眠くなるが、それは当然酒も飲むし、他のものも山ほど食うからであるのは明らかなことである。酔っ払って満腹になればそりゃ眠くもなる。その辺の自己管理のまずさをトリプトファンが云々という、一見科学的な屁理屈でごまかしているのが正しいところであろう。もっとも、そういうこととは無関係に、七面鳥という食材はもっと食べられてもいいものだと私は思うので、多少出遅れた「元気が出る」というデマが理由でいいから、もっとポピュラーになってほしいと願うものだ。私がファーストフード店で唯一行きたいと思うのはサブウェイで、そこのターキーサンドはうまいのになぜかあんまり流行らんようで、近くにあった店もつぶれてしまったしねぇ。

これも、日本人はあんまりトリプトファンに渇望していないからだという、伝統的バックグラウンドがあるからかも知れんけど。なお、簡単なターキー料理はこちらを参照のこと。「ターキーはパサパサでうまくない」なんて思っている人が多いけれど、それは単なる探究心の乏しさの反映。トリプトファンのことは抜きにして、一度自分で工夫して料理してみることをお勧めする次第。

投稿者 webmaster : 2004年12月06日 23:56

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コメント

FDAは後にトリプトファンを再認可しました。摂り過ぎの害が伝えられたのと再認可と時間的にどちらが先だったかについては私は知りません(すみません)。

ところで、ダニエル・エイメン氏は一連の著作で「消化管から吸収されるトリプトファンの量を増やしたからといって脳が利用可能なトリプトファンの量は増えない」とくり返しています。トリプトファンの豊富な食品の多くは高タンパク食品でもあるので、他のアミノ酸も大量に含まれる。ところがトリプトファンは数あるアミノ酸の中では小粒な方に入るため、他の大柄なアミノ酸に物理的にはじき飛ばされやすい。低タンパク・高デンプン食でアミノ酸全体のレベルが下がれば、競争相手となるアミノ酸が減り、脳が利用可能なトリプトファンは逆に増える。激しい運動をすればもっと増える――ということだそうで。もしこれが本当なら、肉をたっぷり摂ってたんじゃイミないじゃん。ますますコメ有利(←コメの部分は日本人ニキの感想でエイメン説ではありません)

ただし、氏は別の理由で七面鳥を始めとする鳥類の肉を支持してた記憶があるんですが(「脂肪が皮に集中しているため脂肪を取り除く必要があるときに処理が手軽だし、第一、おいしいよね」といった趣旨)、どこで読んだのだか思い出せず、何か自信がなくなってきた。

投稿者 Niki : 2004年12月09日 14:41

昭和電工の製品でおきたトリプトファン不純物の事件は1990年の出来事だと思います。今でのアメリカではトリプトファンのサプリメントや食品添加物としての使用は禁止されているので、日本のサプリメントの中にはアメリカで販売できないものがあります。

投稿者 蝉丸 : 2004年12月08日 10:33

いや確か米国で七面鳥を食べるのは開拓時代ニワトリが不足していたので代わりに野生の七面鳥をとっ捕まえて調理していたのが起源だとか何とか。
いずれ私が子供の頃にはクリスマスの鶏股の照り焼きなど大層なご馳走でしたが。何しろ兄弟が多かったもので「一人一本」なんて結構な贅沢でした。

投稿者 小狸工房 : 2004年12月07日 20:38