じんま疹もなおったので再開。
約20年前、一応首都圏とされる某県で精神科救急施設が開設されたところから話を再開する。その施設旗揚げの中心人物であったA医師は、その地方では大学や行政、医師会などにも顔が利き、しかも学究肌として知られた存在であった。惜しむらくは精神医学業界では異端とも言える精神分析系を専門としておられ、出身大学ではメインストリームには乗りにくかった。県下では先進的な実践で知られる私的病院に籍を置き、医療を実質的に総指揮する立場にあったが、地域全般の精神科医療体制のお粗末さに業を煮やし、県に入って精神科救急医療システムを作ろうとされたのである。
A医師は、県下で発生した急性期の精神科疾患ならどんな患者でも引き受けるような救急対応病院を作り、そこが同時に他の精神科医療施設ネットワークの要となるように機能すれば、医療の質がバラバラの個別病院の限界を乗り越えられると考えた。一番手間のかかる作業を中核病院がこなし、その後のフォローを個々の病院で行うということだ。長期入院傾向が著しい県下の状況に対し、マンパワーを充分にかけた精神科医療をモデルとして提示でき、全体の底上げも可能になるに違いない。何より、効率的な短期集中医療体制を持つことで、個別病院の負担を減らし、有効なリハビリ治療に専念してもらうことが可能になるのではという見込みである。
A医師にひきいられたスタッフたちは、それは献身的な努力でその構想を実現化するべく働いたものだった。そこには24時間体制で相談窓口が開かれ、県下での救急症例には時を置かない対応が可能になっていた。わずか数十床という病床なのに、医師は10名以上、看護師はほぼ同数という体制で、県下各地から危機状況を抱えて入院してきた人たちに、自己犠牲的な熱心さで治療を行ったのである。
当然、採算というものは度外視であった。わずか数十床では、どんなに濃厚な治療的努力を投下しても、そこから得られる医療収入は人件費にもならなかったはずであるが、A医師は県幹部たちにがんセンターなどの例を引き合いに出して説得した。たとえ今は採算が合わなくても、この体制の有効性が現れてくれば、やがては県下の巨大精神病院の必要性はへり、無駄な医療費が収容所体制を維持するだけに使われることもなくなっていくであろう。10年、20年先をみて欲しいと。
この施設とそれを中心にした救急体制は全国で評判になり、A医師やその右腕の医師たちは、各地でこの実践の成果を講演してまわり、ある意味でひとつの精神科医療モデルとなったのは確かである。別の地域で仕事をしていた私も、同輩の幹部医師の講演を聞いたことがあるが、懇親会でちょっと話してみると、準備段階ごろの元気よさとはうらはらの疲れた様子に気がついた。
考えてみれば当たり前のことなのだ。どこの世界にいったって、たくさん人手をかけて採算を無視した治療をすれば、精神疾患がコロコロ治るなんて話があるわけがないのである。確かに、のんべんだらりと長期入院を続けるばかりの体制より、状態に応じて適切な保護と休養ができ、地域社会でもそこそこの配慮がされるような体制が望ましいのは当然である。だからといって、それに対応した治療成果が得られるかというと、それはまた別の話である。
うつ病圏や急性反応系ならそういうこともありえるが、それは医療体制の問題というより、個々の症例への適切な対応のレベルであって、わざわざ大赤字の医療施設を作る必要などない。私なら、もっぱらそういう症例だけを相手にして、たっぷり儲かる施設を作る自信がある(その時は銀行さん金貸してね)。問題は、圧倒的多数の分裂病の患者さんたちをどうするかということなのだ。
2~3ヶ月急性期治療したら、あとは適当に各地の病院にばらまき、リハビリしてもらえば何とかなるような分裂病の患者さんがいたら一度お目にかかりたい。中にはラッキーな症例もあるが(診断が間違っている場合のほうが多いが)、分裂病の患者さんは急性期を何とか乗り切っても、様々なきっかけで不安定になるものだし、そういう時はまた別の仕事と、下請けに出せるようなものではない。A医師の構想は確かに巨大精神病院での収容型医療に対抗する手段としては有効な面もあるが、ある程度は長期収容も必要となる実情を無視した、結局敗退することがはじめから決まっている戦略なのである。
開設20年をへて、A医師の理想はおそらく変わっていないだろうが、それをかなえる手段であるはずだった救急施設は当然かなり変質してしまっている。その辺のことについては、スタッフの官僚化という必然的問題もあり、次回に少しまとめて結論としたい。
なお、明日はちょっと予定があるので更新はお休み。
投稿者 webmaster : 2005年01月07日 21:17
このエントリーのトラックバックURL:
http://med-legend.com/mt/mt-tbcba.cgi/312
新春からのフジテレビ系列の番組で 『救命病棟24時』が1月10日(火)からスタートしますとの番組宣伝がながれていました。
先日見た“救命病棟24時スペシャル”は過去のドラマの良い所ばかりを集めていて凝縮していて 最近の救急の場面をドラマ化しているという点では見ごたえがありました。
松嶋菜々子が演じるし研修医 江口洋輔演じる中堅どころの医師 伊藤氏演じる同じく中堅の医師、等前回は出演されていましたが 今回は どんなメンバーが出てくるか楽しみです。
ちなみに私“ニゲ”と呼ばれる 第二外科の話なら やっとついていけますが 他は素人です。
ニゲの有名人では <トクダ トラオ>という虎年生まれの沖縄出身の先生が超有名で 国会議員にもなられて、新しい政党を作られようとして 失敗されたのは 有名な話ですよね。
投稿者 藍・I : 2005年01月10日 07:44