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2005年01月15日  「ペインクリニック」第2版 [本とか映画とかTVとか舞台とか]

ペインクリニック-神経ブロック法-」(第2版)[監修:若杉文吉;医学書院]

いわゆる読書感想とはいえないので、このカテゴリに入れるのはどうかとも思うのだが、自分の人生に大きな影響を与えた本ということで、ちょっと触れてもいいような気がするので紹介してみる。医学教科書というのは単なるマニュアルなので、差しあたっての役に立つことが書いてあればそれでいいわけだが、なかなか判りやすい本はないもので、何種類かをあわせ読んでやっと大まかなところがわかるなんて事はざらである。その点、少なくとも神経ブロックという手技に関しては、この本はまことに痒いところに手の届く説明がしてあって、私みたいな門外漢にも実に役に立つものであった。若杉一派というのは、多少「と」系の言説でも知られていて、その辺が私の波長に会うのかも知れないけれど。

普通に精神科の医者なんかしていると、身体疾患のことはほとんどノータッチでもかまわないというような風潮が日本の精神医学業界にはあるくせに、その一方で精神科医療はまず単科精神病院で行われているという現状がある。そういう陸の孤島みたいなところだから、そこを仕切る精神科医は身体的プライマリケアレベルでも万全かといえば、もちろんそんな事はなく、ほとんど無医村だというのは関係者ならみな知っていることである。

私自身、研修医のころ、自分は本格派精神病理学系の治療者になるのだから、学部で習ったような卑俗な身体医学なんぞにかかわらないのだという決心を持っていたものだ。例えば脳外科医は「首から頭のてっぺんの間30cmだけを診る」なんて豪語するのだが、それを真似るなら、精神科医は「目の上から30cm以上を診る」という風に考えていたわけだ。ところが数年間本格派の精神病理で身を立てようとしている間に、どうもその方向性は間違っているとは言わないまでも、かなりバカバカしい努力のように思えるようになった。

実際、もっぱら総合病院での精神科医療を任されていると、長期入院を前提にしたいままでのスタティックな精神病理学というのは、目の前の患者をみる事の役にもあまり立たないのを実感する。そのあたりで、言うならば「本格派」から「ハードボイルド派」に宗旨替えすることになるわけ。入院させて鍵かけてしばらく薬漬けにして落ち着くのを待つというのではなく、差しあたってグズグズあれこれ訴える人に何をするのかということが問われるわけである。

もちろん、精神科薬物療法の見立ても素早くないといけないし、合併しないことのほうが珍しい身体的な症状にどう適切に対応するかということが問われる。そういう時、かなり役に立ったのが「ペインクリニック」の手法であった。大学時代にかなりユニークな麻酔科の教官と知り合い、一般的な身体医学の考え方とは違うアプローチを聞かされていたという経験が役立った。少なくとも薬物療法という点では麻酔科医と精神科医というのは、使う薬も同じようなものなのである。我々はまず局麻剤は使わんけど。あ、てんかんの重積で使うことがあるか。

そんなわけで、肩こりやらめまいやらのぼせやら、あまり身体科で相手にされない症状を訴える人が多い精神科通院者に対して、神経ブロックは実に役に立った。といってもそれほど専門的なことをやるわけではなく、せいぜい頚部の星状神経節ブロックぐらいである。それでも必要に迫られて色々やっているうちに、どうにも麻酔科医がいないときの代理ぐらいは出来るようになるのだから不思議なものである。もちろん、自分からその役を志願したりはしないけど。

そういう時、この教科書はまことに実践的な指針になったのである。普通の麻酔はまた別だけど。もともとこの本は薬屋さんの宣伝パンフレットに起源があり、薄っぺらいその本は実に判りやすくまとめられていたものだった。80年ごろに普通の教科書になったとき、、むしろクダクダしくなって余計わかりにくくなった感があったものだ。第1版がどこかに行ってしまって、購入しようと思ったら4年前に改訂されているのに気が付いた、という次第。一番初めのパンフ時代が、やはり最も判りやすかったという伝統はそのままのよう。

しかし、この第2版は別の意味で革新的なのである。それは、その中に「電気けいれん療法」の手順についての記載があるからである。いわゆる電気ショック療法、通称電パチである。もちろん麻酔科医によるものであるから、適応はあくまで疼痛であるが、その機序にうつ状態が関与しているものを想定しているのは当然。しかも、専門職のやることであるから、ちゃんと全身麻酔をかけて筋弛緩薬を使い、呼吸管理をしたうえで、全身けいれんを起こさないやり方をちゃんと解説してくれている。

精神科医にはどうにも治療で行き詰まるとこれに頼る連中が結構いるくせに、私なんかが見よう見まねでやってきた、この修正非けいれん手順をちゃんとやれる人間がほとんどいないのである。今のところ、日本の医学教科書の中で、この修正電気けいれん療法の手順を体系的に述べているのは、実にこの教科書の2版だけで、私としてはいままで個人的に散々世話になってきた本が、思わぬところで実力を発揮してきたのに、いささかの驚きと喜びを感じざるを得ないのである。

というわけで、この修正電気けいれん療法を知るためだけにでも、世の中の精神科医に買ってほしい一冊ということでここで紹介したわけである。そう厚い本でもないのに、税込み9450円というのはナンボなんでもと思うのと、非優位脳への一側性刺激が説明されていないのが難点といえば難点。でも、その程度の事は経験豊かな専門医であれば、創意と工夫で充分応用可能だろう。もちろん、修正型とはいえ、やらずに済ませるならそれに越したことはないのだけれど。

投稿者 webmaster : 2005年01月15日 23:52

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