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思わぬところで、フローレンス・フォスター・ジェンキンスというソプラノ歌手のことを知った。1868年、アメリカはペンシルバニアに生まれた不世出の有名歌手である。彼女は幼い頃からピアノと声楽を学んで育ったが、ヨーロッパでさらにキャリアを深めたいという彼女の希望をその父親は認めなかった。彼女はフランク・ジェンキンスという医師と駆け落ちし、フィラデルフィアで暮らした(後に離婚)。彼女は教師やピアニストとして生計を立てていたが、1909年に父が死に、幾ばくかの遺産を受け継いだ後、幼い頃からの夢の実現に乗り出すのである。
彼女はベルディ・クラブという団体を設立し、自分のリサイタルを開く。初めてそれが開かれたのは1912年のことであった。彼女はその両親や別れた夫に、音楽の道で暮らすことを阻まれ続けて来たのだが、自分の音楽的才能を確信しており、それを世に示すことを自分の使命だと考えていたのである。
しかし、彼女にはソプラノ歌手としては若干の−ただし致命的な−欠点があった。音程が定まらず、テンポも著しくずれ、何よりその声域が狭いのである。彼女の音楽面の雇われ後見人、コスメ・マックムーン(ピアニストで、彼女のために何曲か楽曲を提供している。どうも偽名らしい)は何度か矯正を試みたが成功しなかった。しかし彼女はその音楽的能力の欠除とはうらはらに、全米に知られる歌手となったのである。
彼女は同時代の有名ソプラノをいつも意識していて、自分のリサイタルを聴いて笑い出す観客は、その有名歌手たちが嫉妬のために送り込んだ手先だと信じていた。もっぱらNYのリッツーカールトンを借り切って行われていた彼女のリサイタルのチケットは、彼女自身の団体だけを通じて売りさばかれ、一般にはなかなか手に入らないようになっていたが、1944年、彼女が76歳の時に、カーネギーホールで大々的に一般公開されることになった。そのチケットは数週間前に売り切れたという。
そのリサイタルが開かれてからわずか一ヶ月後、彼女は他界する。一説によればリサイタルへの酷評がその死の原因であるとされるが、実際にはその最期の床にあっても彼女は幸福だったらしい。人は明らかな能力の欠除などとは無関係に、自信に満ちた人生を送ることができるのである。卑小な観念にとりつかれ、一生を棒に振る人々にとっては、よき人生の指針になる人であろう。
彼女の歌はCD化されて、今もきくことができる。「 人間の声の栄光???? 」とか「3点ハ音の殺人」などというかわいそうな題が付いているが、それとは別に「オペラCDこの一枚」などというベスト集大成ものにもちゃんと収録されているのである。
日本のアマゾンでは視聴できないが、本家の方では一分近く聞くことができるので、是非訪問してほしい。「魔笛」の「夜の女王のアリア」なんて、ホント鳥肌ものですぜ。また、この人の人生は舞台化され、昨年はじめからつい先頃までNYのヨーク劇場でロングランされていたという。映画化されることでもあったら、見てみたいものですな。
参考:Wikipedia,"Florence Foster Jenkins"
追加:Amazonの一分足らずの視聴ではやはりこの人の魅力を知るのは難しいので、あまり感心しないものの、著作権もとっくに切れているだろうから、夜の女王のアリア全曲をこちら(mp3形式約3.4MB)にアップしておいた。彼女の雇われピアニスト、コスメ・マックムーンは、彼女の歌を評して「私は正確さへの確かな希求をそこに聞いた」と言ったらしいが、その気持ち、ほんとによくわかります。
投稿者 webmaster : 2005年02月20日 22:30
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トラックバック時刻: 2007年05月01日 10:22
はじめまして、何時も楽しく拝見させていただいています。
初めてこのジェンキンスという方の歌を聞かせていただきました。
ループして聞いているうちに何か考えるところがあると思ったので思い切って Amazon で注文しました。
彼女の CD がロックの CD ばかりしか持っていない自分の、初めて買うオペラの CD となりました。
ありがとう。
投稿者 koh : 2005年02月22日 01:21
>ホント鳥肌ものですぜ。
いや~
別の意味で鳥肌が立っちゃいましたヨ~w
貴殿とは音楽の好みが全く合わないことがよく分かりました。
こういうのがお好きなら、「shaggs」なんてのもお好みですかね?
こっちは笑えるだけまだ救いがあるような………w
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/search-handle-form/250-5939560-0465015
投稿者 ガクガクブルブル : 2005年02月21日 23:29
そういう人がいたという話はどこかで聞いたことがある気がしますが,実際に音源にふれたのは初めてでした。John Lennonのバックコーラスを彷彿とさせますねぇ。
投稿者 笑腰 : 2005年02月21日 01:55
そんなに有名なんですか?その割には日本語でのサイト記事には間違いが多かったですけどね。大富豪の未亡人だとか。それに、一部のファンとか好事家なら知っていることを避けていたら、ここに書くことなんか何にもありません。
ま、この人のポジティブさとそれを支えた構造に、職業的な関心を持ったのが理由といっておきましょうか。
投稿者 webmaster : 2005年02月21日 00:42
F・F・ジェンキンスってオペラファンの間ではあまりにも有名で,実のところ「なんで今頃?」なんです.
夜の女王ならサザランドやグルベローヴァが基本なんでしょうが.
投稿者 arayebis : 2005年02月20日 23:52