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2005年02月24日  びまん性レビー小体病 [医学・科学関連]

3ヶ月ほど前に、女性老人患者が他病院からの紹介状をたずさえて私の外来を訪れた。2年ほど前から幻視を中心とする幻覚に悩まされるようになり、軽度痴呆症状の進行も見られるという。抗精神病薬を何種類か試したが、激しい薬物性パ-キンソン症状を示し、薬物コントロールが困難であったが、結局抗痴呆薬であるアリセプトでそこそこの改善が得られたという。紹介状によれば、診断名は「びまん性レビー小体性痴呆」とある。

正直言って、聞いたことのない病名であった。レビー小体というのは知っていて、こいつはパーキンソン病のとき、変性した神経細胞に増加している封入体である。そいつが脳全体に増えているような病気ということなのだろう。当然、死後の脳細胞を顕微鏡でみて初めて判るのだから、生きている間の診断にそんな名前がつくのも面妖だ。

そんなわけで、目の前の患者も無視して外来中にネット検索である。どうもこの疾患は95年ごろに確立したばかりで、それも日本人研究者によって提唱されたもののようだ。パ-キンソン病のときに見られるレビー小体が、脳全体に増えるような病理所見を示すらしいが、死後の病理所見を待たずに診断がつくのは、これがかなり特異な臨床症状を示すのが理由だという。

この病気では、早期から幻視を中心とする幻覚が目立ち、次第にパ-キンソン症状と痴呆が進んでくるという特徴があるそうだ。特にその幻視が、極めてリアリティのある等身大の人物群が登場することが多いのだという。脳器質的な幻覚には幻視が多い傾向があるのは事実で、分裂病のような機能的な異常にはもっぱら幻聴が目立つのと対照的である。しかも、これは一般的な痴呆性疾患の2割程度を占める可能性があるともいうのである。

大脳脚あたりの脳血管障害のとき、脳脚幻覚症という幻視症状が時折みられ、こいつは私も結構みた事があるが、微視幻視とでもいう、「小さい動物や人物」が出てくるのが特徴的だ。机の上に小さい子供や動物などがあるいていたりして、アルコール中毒のときに見られる小さな虫の幻視にまで広がるスペクトルがあるように思える。

私のみたあるお婆さんは、「神棚に小さい天狗さまが座っている」のが見えるという幻視が続いていたが、少量の抗幻覚剤ですぐに改善した。はっきりとした幻視がありつつ、批判性が保たれるのも特徴である。後は脳血管障害で普通に使われるような薬を併用しながら、経過観察ということになり、予後もそう悪くはない。

その点、このびまん性レビー小体病の場合は、等身大の人物がどかどか出てくるという特徴がある。はじめの紹介状患者の場合は、死んだはずの母親が寝床に出てきて、旦那の布団に入り込んでくるのが毎夜つづき、旦那がそれをそう嫌がっていないのに腹を立てていた。その一方で、そんなアホな、という違和感は充分維持されていたのである。

アルツハイマー病と確定診断されていて、その経過中にかなりはっきりしたパ-キンソン症状を示すことはそうまれではない。ケッタイな幻覚様の訴えもそう珍しくはないのだが、そういうのはせん妄だとか、先の脳脚幻覚症の類なのだろうと、いい加減にごまかしてこういう状態を見逃していたのであろう。

薬物療法で、一般的な向精神薬が使いにくいこともあり、もっと意識的に鑑別すべき状態といえるが、今までそんなのに気づいたことはなかったなぁ。そう思っていたら、数日後の外来に救急担当医から老人が紹介されてきた。その人は前日の深夜、様子がおかしいといって救急受診したのだった。

その人の言うには、寝ていたら部屋に突然ガス工事の職人たちがいっぱい入ってきて、なぜかその辺のおばさんや子供たちもそれについてきたのだという。ガス工事という話だったのが、自分が寝ている寝室をそのまま家から切り離してトラックにのせ、大雨の中を町中走り回り、眠らせてくれない。工事の連中の隙を見て部屋から這い出し、家族をたたき起こして助けを求めたため、変調に気づかれたというわけである。

本人も自分の体験にかなりの矛盾があるのに気づいているのである。「トラックに乗ってるはずなのに、家族の部屋まで行けるのはおかしいですよねぇ」なんて頭をかいている。でも、あの工事人や女子供連中がわさわさと部屋に入ってきたのは、ハッキリ覚えているのだという。

身体症状にも軽度のパ-キンソン症状が認められ、どうもこれは「びまん性レビー小体病」経験の第二例のようである。MRIにもたいした異常はなく、脳血管障害からきたせん妄とも思いがたい。そう痴呆は目立たないが、えいやっと思い切ってアリセプトを処方してみると、あら不思議、翌週の受診時には「いやー、楽になりましたわ」と笑顔であらわれる。

病気についての知識がつくと、突然その疾患が見えるようになる、というのは時々あることではあるが、こんなに劇的にある疾患を認知できるようになるというのは珍しい。不思議なことに、その数日後にも同じような幻視症状を訴える人が私の外来を初診したのである。

確信的に「びまん性レビー小体病」という診断名をカルテに書き、「何なんです、これ?」と不思議がる事務職員に、「キミ、こんなのを知らんのかね。こいつはいまトピックなんだよ」と、この疾患のエキスパートのような顔をして見せたのは当然のことである。しかし、これもしかしたら環境要因かなんかによる新疾患じゃないのかと、かなり気にならないでもない。

投稿者 webmaster : 2005年02月24日 22:34

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コメント

なるほど,MIBG心筋シンチですか.参考になりました.
精神科医より,神経内科医っぽいアプローチですね.

投稿者 同業者 : 2005年02月27日 02:55

 同業者です。
 最近ではMIBG心筋シンチでAlzheimerとDLBを鑑別しようという試みもあるようですね。
 交感神経に異常のあるDLBではMIBG心筋シンチで取り込みが著明に落ちるとか。

投稿者 desk : 2005年02月26日 11:58

どうやらDLB(レヴィ小体型痴呆)らしいけれど,かなり進行して身体が固まってしまって,既になんだか分からなくなっている患者さんを,DLBを広く世界に普及させた小阪先生の愛弟子の精神科医に,確定診断のため,転院を引き受けて頂いたことがあります.
精神科医には珍しく,非常に謙虚な方でした.
小阪先生もいろいろな文章を拝見すると,非常に誠実,真摯な方と感じます.
やはり,新しい切り口を発見される方というのは,真摯に患者さんに接し,その症候を丁寧に探索する態度を貫くのだろうと思います.

投稿者 同業者 : 2005年02月24日 23:47