« ネコの回転着地メカニズム | メイン | 知事選挙 »

2005年03月11日  扇風機であの世行き? [都市伝説・デマ・トンデモ]

春いまだに来たらずという今日この頃なのに、いささか季節感のない話で恐縮なのだが、"The Museum of Hoxes"で、「韓国では『扇風機をつけたまま眠ると死ぬ』と信じられている」という話題が出て盛り上がっていたので、こちらも後追いで取り上げてみた次第である。韓国で生活しているあるアメリカ人が、つきあっている韓国人の友人たちがみなこれを信じ切っており、いくらアメリカ人としての常識を駆使して説明しても誰も聞いてくれず、ネットでこの考えが間違いであることを調べようと思ったが、適当なサイトがないのに業を煮やし、"fandeath.net"というのを開設した。その開設の弁には、韓国ではこれについては説明以前のこととされていて、客観的な議論そのものが成り立たないというボヤキが書かれている。

fandeath.netは、ほかにも韓国にある、欧米人から見ると奇妙な信念についてふれている。例えば、韓国人は舌の下側についている舌小帯が短いので、そのために英語の発音が下手なのだと皆信じているのだそうで、英語上達を目指す人の間では、舌小帯を切除する手術がけっこう行われているのだという。なんとなく欧米エスノセントリズムの匂いがするのがいささか不愉快な面もあるが、なかなかおもしろいサイトではある。

韓国を出すまでもなく、この「扇風機をつけたまま寝ると死ぬ」という言い伝えは、この日本でもポピュラーなものだ。私も何度も聞かされたが、守ったことはない。これほど多くの人々が信じていながら、実際にはほとんど守られない戒めもまず珍しいのではないかと思うほどだ。大概の人はそれに反することをしながら、この信念だけは受け継がれていくのもちょっとおもしろい現象といえるかもしれない。

実際に「扇風機、死ぬ」というキーワードでグーグルを引くと、「健康情報サイト」を自称するようなところでも、これがそのまま事実として紹介されていたりするのである。「扇風機で死ぬ人のほとんどが心臓麻痺で死んでいます」なんて、一体どこで調べてきたんだよといいたくなるような解説がつけられていたりする。以前、雪山で遭難したときに「眠ると死ぬ」と言われることについて書いたことがあるが(「誰も寝てはならぬ」参照)、あの時の擬似科学的な説明がここにも敷衍されているようである。繰り返しになるのでここでは詳しく書かないが、確かに身体の中心部の体温が5度ほど下がると致命的ではあるのだ。しかし、薬物でぐっすり眠り込んでいたりしないかぎり、悪寒戦慄が起こって体温を維持しようとするので、そんなに簡単に寝たまま死ぬようなことはない。

まして扇風機である。寝ているとき、それを使うぐらいなのだから熱帯夜であろう。体温との差もそんなにない高温の下、多少の気化熱が奪われるぐらいのことで、体幹のコア体温が5度も下がるわけがない。せいぜいが、お、ちょっと涼しくなったかなと感じて目が覚める程度のことだ。ほとんどの人はそういう体験をしているはずである。そもそも、私は30年近くこの業界にいるが、いまだかって「扇風機をつけっぱなしにして死んだ」とされる変死体や、扇風機で低体温になって救急外来に担ぎ込まれた人を見たことがない。あらゆる同業者でも同じであろう。そりゃ真冬に低体温で担ぎ込まれる酔っぱらいとか、OD患者はけっこういるが、扇風機とは何の関係もない。

これは生理学的な事実というようなものを離れた、別の価値観を表したものだと考えるしかない。言うならば、機械文明というものに自分の心地よさをゆだねてしまおうとする傾向に対する戒めが、この扇風機への警戒心になったのであろう。扇風機が一般に普及し始めたのは昭和30年代初頭であると思う。電灯やアイロンというような最低限の必需品しかなかった一般家庭に、快感を運ぶ器械としてはじめてデビューしたのが扇風機なのである。西欧グローバリズムの先兵といってもいいもので、それに対して民衆が即時的に身構えた結果、あの言い伝えが普及したに違いない。

The Museum of Hoxesの記事で、韓国にも同じ信念があると知り(実際は微妙に違うのだけれど)、やはり同じアジアの同胞なのだと今さらのように連帯の思いを強くするのである。それにしても、あの記事にコメントするアメリカ人どもは、「科学知識のなさ」という一点に反応している場合がほとんどだった。どうも連中には、扇風機つけっぱなしで死ぬことはないという程度の小知恵はあっても、自分たちの押しつけているグローバリズムを、一歩下がって顧みるという叡智は期待できないようだ。

一人だけ、「金粉で窒息死」伝説と同様なものとして、欧米の伝説と相対化しようとするような意見があったのは指摘しておくべきか。もしこの「扇風機死」伝説が欧米にもあったら、007シリーズでは扇風機を当てたまま眠らされて殺される全裸美女というシーンが見られただろう。

投稿者 webmaster : 2005年03月11日 21:50

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://med-legend.com/mt/mt-tbcba.cgi/374

このリストは、次のエントリーを参照しています: 扇風機であの世行き?:

» ドリアンとお酒を一緒に食すと死ぬ? from 日常のメモ
いつも拝読しているblog「医学都市伝説(http://med-legend.com/)」はたいへん面白い内容です。 今回は恐れ多くもtrackbackさせて... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年03月14日 16:40

» 真夏の密室殺人の謎はここにあったッ・・・! from PENPAL
なんと扇風機で死ねるそうです。 いぇ、コンセントから漏電火災とか、カバーを外して回転する羽根で誰かにモーレツ回転アタックをかますとかゆー訳ではなく。 あんま関係... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年03月15日 00:56

コメント

この話を読んで、韓国系の外国人の知り合いに知っているかどうか聞いてみました。結果は「扇風機をつけたまま眠ると死ぬというのは聞いたことがないが、扇風機を顔に当てたまま眠ると、顔面神経痛なる」と言って信じていました。何で?と理由を聞いてもいまいち説得力がないと自分は思ったのですが、本人は信じているようです。当人によると、扇風機でも体の一部分にあてるのは良くなくて、体全体にあたるのは構わないとの事。クーラーの場合は体全体にあたるので健康上問題ないと言っていました。上にコメントされている『体の一部分に当てていると麻痺してしまう』というのと同じでしょうか。自分自身扇風機をつけっぱなしで寝ると次の日からだがだるく感じるのもやっぱり都市伝説なんですかね?

投稿者 office_worker : 2005年03月15日 23:11

手塚治虫の「人間ども集まれ」でも紹介されていましたが、極端に衰弱した状態だとオシッコした途端心不全を起こしたりするとか。
作中では排尿による体温や血圧の低下が原因とされていましたが、南方での強行軍でも報告されていました。

用を足した途端ブルルっと震えたりするところからしても結構な量の熱が失われているように思います。

投稿者 小狸工房 : 2005年03月14日 20:18

どの部分が「明らかに誤っている」のか説明しないと、単なるけち付けですよ。

あの部分はは某医学記事の引き写しで、たしかに、せっかく高比熱の湯たんぽを抱えているようなものなのに、わざわざ熱を捨てることになるのではないかとも考えましたが、どうせ排尿はしないといけないのだから、一度にどっと熱を捨てるよりはちびちび捨てるほうが熱産生に限りがある状態では有効だと思いますがねぇ。文章がわかりにくいのは認めますが。

投稿者 webmaster : 2005年03月14日 00:22

「誰も寝てはならぬ」を読んだら、最後の部分に、
”*ただ、体表血管収縮のために血圧上昇して尿産生も増えるので、頻回にオシッコしたほうがいいそうだ。膀胱内のオシッコというのは比熱が内蔵より高いため、貯めておくと熱を奪うのだそうで。”
と書かれていました。
これ、科学的に明らかに誤っているんですけど。
新たな都市伝説を作るのが、狙いですか?

投稿者 bleached_brains : 2005年03月13日 23:42

LとRの発音は、あれを「ラ行音」だと解釈するのが根本的に誤っています。
Lこそ日本語でのラに近い音ではありますが、厳密にはやはり別物であります。
私はこれの矯正に5授業時間ほど費やしました。おかげで少しはましになっているようです。"Thank you"を「たんきゅー」と発音する癖は別にして。

エヒメの某所では「大正時代に大股開きで扇風機にあたっていて低体温症で亡くなった娘さんがいる」という噂があります。
いずれ典型的な都市伝説でしょう。

さらに余談になりますが洒落た言い回しだと信じて使っていると怪訝な顔をされたりします。
スパングリッシュだったりして。

投稿者 小狸工房 : 2005年03月12日 18:49

韓国も日本と同じで、RとLの区別がないみたいです(己に似てる文字がラ行)。英語コンプレックスはお隣の国も同じだったと思うと親近感がわきます。
韓国の教育熱は相当なものらしく、学校の授業は朝6時半から夜11時までという殺人的なものであるというのが、NHKハングル講座のテキスト3月号に書いてありました(勉強中なのです)。

投稿者 yoda : 2005年03月12日 11:37

「なになにすると死ぬ」っていうことでは、バングラデシュでは牛乳とパイナップルを一緒に食べると死ぬと信じられていると聞きました。(私の行った西部地域だけかもしれませんが)何かこれに類する事故でも起こり、それが医学的知識の普及の低さゆえに信じ込まれてしまったということなのかもしれないとすると、他にもたくさんあるように思います。

投稿者 Tomo : 2005年03月12日 10:38

突然死ではないんですが、扇風機の強い風を体の局部に当てて寝ると、その部位が麻痺したり痺れが残ったりするという話を何度か聞いたことがあります。
たとえば一晩風に当たっていた顔の右半分が麻痺して、それ以降ずっと不自由しているとか、同じく風に当たっていた片腕にしばらく痺れが残るとか。

私自身も何度か同じような状況で居眠りしていたことがありますが、この様なことは一度も無いですし、話の事実関係も曖昧であるため噂の範疇を出ない物と思っています。

投稿者 ハコ屋 : 2005年03月12日 10:30

30年前のイバラキなら、原因不明の突然死のさい、たまたま扇風機がついていたらそれに死因を押しつけるようなことも可能だったということなんでしょうね。死因調査という公式的なものでも、けっこう伝説がまかり通っているという実例でしょう。

なんぼなんでも、キョウビこれをやれば、死因隠蔽の意図があるとされてもしかたないでしょう。

投稿者 webmaster : 2005年03月12日 08:50

1972年7月21日、茨城の会社の独身寮で男性社員(23)が仰向けで死んだ布団の上で発見された。前夜、風呂上りに扇風機をつけ放しにして寝込み、身体が冷えすぎ心臓麻痺を起こしたものとみられた。
 当時のことだから、本当は別の死因があったが扇風機によるものであると片付けられ、伝説の補強が行われたのかもしれないが、実際に扇風機で人が死んだとみなされた事件は起きています。

投稿者 猫 : 2005年03月12日 08:00

知りませんでした。扇風機つけっぱなしでも死なないんですね。
子供の頃、親戚の知合いの人が扇風機をかけたまま寝ていて、
夜中に心臓発作を起こして死んだ、と聞いて以来、
扇風機は切るか、タイマーをセットするなどして寝ていたのですが、都市伝説だったとは。
ただ、先生の「近代科学技術への警戒感からの都市伝説」説には申し訳ないのですが、
扇風機の代わりにエアコン付けっ放しで寝ていました・・・。
何はともあれ、一つ利口になりました。

投稿者 2児の母 : 2005年03月12日 02:58