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イグ・ノーベル賞を主催しているAnnals of Improbable Researchのコラムに、ビッグ・バン理論(医学版)と題して、外科手術中に体内ガスが爆発した症例についてのガーディアンの記事が紹介されていた。確かに、この話は学生時代に聞いたことがあるし、啓蒙的解説のマクラに使われたりすることはあるのだが、具体的な例というのは確かめたことがなかった。ガーディアンで紹介された論文集のうち、全文が読めるものがあったので、何かの役に立つかもと読んでみた。これはBMJの卒後研修生向け雑誌、Postgraduate Medical Journal の2002年版に公開されたものである。
「腹腔内遊離ガス:高周波メスにとっての最後の危険」
手術室の火災や爆発というものは希ではあるが、機材や人命に対して破滅的な影響を持つものでもある。可燃物、酸素、そして発火元が爆発を起こす三要素である。腸管穿孔の緊急開腹術の際に起こった爆発事故は今まで報告されたことがなかった。我々はここに、胃穿孔から漏出した可燃ガスと、心肺救命処置の際使用した酸素が遊離ガスの形で腹腔内にのこり、高周波メスが発火源となり、患者を死に至らしめた例の報告を行いたい。
症例:77歳の女性が突然起こった上腹部痛と嘔気のため、救急外来を受診した。彼女の腹部は膨満し、強い抵抗が認められた。腸雑音は消失しており、腹部腫瘤も触知されなかった。末梢循環は悪く、予後不良が伺われた。胸腹部X線写真は横隔膜下に遊離ガスをしめし、胸部には腸管の累積像が見られた。これは拘約性の横隔膜ヘルニアの存在と、腸管の穿孔を示している。血液検査には大きな変化はなかったが、動脈血は高度の代謝性アシドーシス所見を呈していた。
彼女は救急室で心室細動を起こし、心肺停止となったため、カウンターショックを含む蘇生処置が行われ、30分後、心調律は回復した。彼女はそのまま胃穿孔治療のため、手術室に運ばれ、麻酔と純酸素による換気の元、開腹術が始まった。皮膚正中切開の後、深部を高周波メスで切開していたとき、突然閃光を伴う爆発が起こった。外科医は一瞬視力を失い、眉毛と睫毛を焦がしたが、それ以上の外傷は負わなかった。
爆発の後、患者の血圧は低下し、著しい不整を伴う徐脈に陥ったが、アドレナリン投与によって血圧は回復した。腹部はガスが放出されたために平坦化していた。開腹術は進められたが左の横隔膜には大きな裂傷が生じ、肋骨付着部にも激しい傷害が見られた。脾臓表面にもいくつかの大きな傷が生じ、腹壁筋層にも裂傷が何カ所か生じており、すべてが爆発によるものと考えられた。
それらの傷の修復、および本来の裂孔ヘルニア修復や胃穿孔の閉鎖術が行われ、傷害された脾臓も摘出された。術創の縫合の前には、胸腹腔内に数本のドレーンが留置された。術後、患者は強いアシドーシスを呈し、血圧低下が続き、無尿となって3時間後に死亡した。(以上、経過のみをかなり抄訳)
いったんやり出したことを放り出すわけにはいかないとはいえ、外科医というのは几帳面な人たちだといささか感心する。私ならはじめの時点で、家族へのムンテラの文句を考えるだけでしょうな。腸内ガスが手術中に爆発するのはほとんど直腸ガス、つまりオナラの場合らしいんだけど、これは胃から漏れたガスが爆発したという珍しいケース。長期にわたって胃内の消化物停留があって、発酵した可燃ガスが溜まっていたと言うことなんだろうか。
いかに奇妙なことであれ、起こりえることは起こるという例。そんなことを言うと、膣痙攣みたいな脳内現象まで擁護するヒトがまた出てきそうだけど。不運が重なった患者さんは本当にお気の毒でした。しかし、術前に胃管は入れてなかったのかな?
A R Dhebri and S E Afify. "Free gas in the peritoneal cavity: the final hazard of diathermy":Postgraduate Medical Journal 2002;78:496-497
投稿者 webmaster : 2005年06月16日 23:59
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古典的な都市伝説のひとつに、胃に溜まっていたガスがおくびとなって口から出た際に口に咥えていたタバコの火に引火して発生した死亡記事、というのがありますが、これからすると悪条件が重なれば決してあり得ない事でもないかと。
水中で怪我を負ったダイバーの開腹手術にかかり、深く考えずに胃にメスを入れると、彼が誤ってしこたま飲み込んでいたボンベのガスが「風船に針を刺した状態」を引き起こした事故は聞き覚えがあります。
無事に整復されたとありました。
投稿者 小狸工房 : 2005年06月17日 22:02