« 私の歯がみ | メイン | 995円DVD »

2005年07月09日  「過労で倒れる」とは何か [都市伝説・デマ・トンデモ]

「都市伝説」とするのは言い過ぎかと多少恐縮なのだが、私が昔から不思議でならないのが、「過労で倒れる」という、健康上のトラブルを表現する言葉である。具体的にどういう事を言うのか、自分でさっぱりイメージがわかないのと、なにより実際にそういう状態で病院に担ぎ込まれて来るような人を、いままで見たことがないというのが大きい。

そりゃね、TVドラマなんかにはこの「過労で倒れる」人がよく出てくるのは知ってますよ。主人公とかその周辺が色々苦労をしていて、突然体調をくずして病院に入院するのだが、出てくる医者は「過労ですね」などと曖昧な言い方をし、点滴ぐらいしかやってない割には絶対安静だと厳重な命令をするのである。しばらくすればそう後遺症もなく退院しているし、一体ああいう状態は何をモデルにして描かれているのだろうか。

不思議といえば、この「過労で倒れる」というのをしばしばリアル世界で示すのが、もっぱら芸能人とか政治家など、セレブ系の人々にほぼ限られることである。グーグルで「過労で倒れる」を引いてみると、4000件近くが出てくるのだが、そのほとんどが芸能人についての報道記事だったり、ドラマの筋書き上の事だったりする。どなたか、自分の身近な人とか自分自身が、この「過労で倒れる」という経験した人います?

もちろん、人が身体的失調を起こすときは具体的な疾患に冒されているわけだ。たまたま休養も充分とれない状態で身体的疲労が続き、それが疾患の発症や悪化を来したような例を、「過労で倒れる」と総称しているのだというのが常識的な理解であろう。しかし、それにしてはえらく「過労で倒れる」という状態が実体化されて捉えられているように思えるのだ。

むしろ私らの守備範囲である、急性ストレス障害とか、パニックみたいなのがこの「過労で倒れる」の理念型を作るうえで、重要なモデルとなっているのかもしれない。でも、あれは「過労」じゃないからなぁ。どちらかといえば、あえて自縄自縛の泥沼状況を自ら選び取っている場合が多いわけで、純粋に外在的な原因で起こるとは言い難い。

もっとも、この「過労で倒れる」という常套句は、私らにとっては患者さんとその周辺を差し当たって納得させるには非常に便利なものなので、人がそういう方向で理解しようとするのにイチャモン付けたりはしませんけどね。そうしてみれば、「過労で倒れる」というようなあいまい言葉が流通している責任は私らにある、ということになりますか。

投稿者 webmaster : 2005年07月09日 23:44

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://med-legend.com/mt/mt-tbcba.cgi/492

コメント

>私の同僚は「過労で倒れ」ましたよ。

まあ、それはどう見ても脱水だったと思われます、点滴であっさり回復するのだし。たしかに疲労がきっかけにはなってますけれど。

でも、どんなに激務であろうが、最低限必要な栄養と睡眠をとっていれば、疲労自体が不可思議な意識消失なんかは、まずおこさんと思います。

投稿者 Webmaster : 2005年07月14日 22:40

私の同僚は「過労で倒れ」ましたよ。

何日も12時間以上の労働が続き、睡眠も食事もあまりとらない状態。ある朝、出勤途中、駅の階段を上っているところで意識を失い、転落。気づいたら、病院のベッドに寝かされていたそうです。

慌てて会社に電話をしようとしたら、公衆電話の前に長蛇の列。同じ様なことで病院に担ぎ込まれ、「とりあえず会社に連絡を」というサラリーマンがたくさんいた、というオチでした(まだ携帯普及前だったんですな)。そういう事例は実際に多いそうですよ。

こういうのって「過労で倒れる」としか言いようがないんじゃないですかね。

投稿者 TOSHI : 2005年07月14日 16:00

私、経験有ります。
正に過労で倒れました。ばたっと
徹夜二日 半徹2週間
限界でした。立った状態で倒れました。
世の中には想像もできないことがあるでしょう。
悲惨な話です。点滴打って二、三時間で何事もなかったように
病院を後にしました。

投稿者 shuu : 2005年07月14日 11:37

少なくとも、「過労で倒れる」と「過労死」は別のカテゴリ
で語られる性質の物でしょう。

前者についてはWebmaster氏の話題の通りですが、後者につい
ては蒸し返す程の物でもありません。
判例なり、労基の書類を読めば事足ります。

投稿者 二人目 : 2005年07月13日 20:30

研修医が過労で「座ったまま起きられなくなる」「ベッドに寝込む」のは何遍も見ました,はい.
確かに「立った姿勢から倒れる」は見た事がないですね.弁慶の立ち往生ぢゃあるマイし.

投稿者 ネオ筑摩屋松坊堂 : 2005年07月11日 22:43

いつも楽しく拝見させてもらっています。田舎のCardiologistです。
 確かに、「過労」って不思議ですね。僕の方の分野でも過労そのもので倒れる人はいないようです。さらに、不思議な言葉が「過労死」。安静が保てなくて、感染症にかかったり、心不全が悪化することはありますが、過労そのもので人が亡くなることは無いように思います。過労の定義や、何を持って過労を死の原因として実証するかの、統一的な見解ってあるんでしょうか。
 直感的には分かるんですが・・。

投稿者 kaz : 2005年07月11日 17:03

大昔、精神疾患の諸症状を押しなべて「神経衰弱」の一言で括っていたのと同じ様相でしょうか。
もちろん具体的な病名を示すといろいろと不都合が生じる方たちのための詭弁としても用いられましょう。

「持病の癪が」というのも便利な言い回しですね。

投稿者 小狸工房 : 2005年07月10日 21:58