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脳外科の医師の1人が開業のために退職したので、その人がやっていた「物忘れ外来」なるものを引き継ぐことになってしまった。こちらにしてみれば、いつも痴呆の疑いがある人は受け入れているのだから、とりたててそんな外来を標榜する必要などない。しかも、ほとんどの場合はマスコミなどに煽られてボケの予感に怯える人につけ込んだ阿漕な商売になり、あまり気分のいいものではないのである。
大体「物忘れ」と痴呆は全く別のもので、確かに後者は前者を含む場合が多いが、前者が後者の前兆とはいえない。もちろんそういう場合があるのは事実ながら、それを早めに見つけて何かいいことがあるかというと、何にもありはしないのである。薬屋さんにすれば、アリセプトみたいにクソ高い薬がドンドン消費されたら笑いが止まらないだろうが、それでどれほどのメリットがあるかというとかなり怪しい。
仮に痴呆症状の徴候があっても、それでそこそこ暮らせている人なら放っておくのが一番で、様々な問題が出現するようになってから対策を考えれば済むことだ。行政などは早期発見を唱えながら、実際に軽い徴候の人に対しては何にもしてくれないし、そもそも介護保険の判定をする係の人など全くのド素人ばかりで、ステレオタイプの重度痴呆でないと見抜けず、こちらの意見書など無視して「不要介護」と判断したりする。
何より一番煩わしいのが、すでに深刻な問題が起こっているのにその点を回避したようなケースが持ち込まれることである。人格変化が初期のメイン症状になる前頭側頭型痴呆とか、妄想が前面に出ているようなケースで、家族がビビッてしまって本人に治療の必要性を説得できず、「ちょっと物忘れが出てきたみたいだから診てもらいましょうね」というような腰の引けた態度で病院に連れて来ようとするわけだ。
一緒に暮らす側がきちんとイニシアティブをとらず、「お医者さんが言うからこうしましょうね」というような姿勢では、こういうケースを家庭でみていくのは難しい。結局、こういう場合の有効な対策は薬物で鎮静することしかないので、家族側が冷静かつ客観的に観察できないと継続的な対応は難しい。ほとんど物忘れがなく、人格障害だけがひどいようなケースでは、家族も症例の異常性にしばしば取り込まれてしまって、「渡る世間は鬼ばかり地獄編」とでも言うような、あっと驚く家族病理を展開していたりする。
当然、脳外科発想ベースの「物忘れ」判定ではそういうところは無視されるので、ぎくしゃくと治療へと受け継ぐことになる。患者にしてみれば、「物忘れは大したことがない」という錦の御旗を得ているのに何を今更と思うだけで、やりにくいことこの上ない。治療の開始点というのは結構大事なことで、その点をぼかすのはあまり感心したことではない。
じゃそんなのを引き継がずに、今まで通りやってればいいじゃないかとおもわれるだろう。ところが、早期発見早期治療の幻想というのは経営陣に染みついているので、こういうサービスへの疑問なんかどこからも出てこないのですな。それに逆らってまでマイペースを保つのは、スマートな給料泥棒であり続けようという私のポリシーには非常にマズイ行為なのであります。
というわけで、今日も昼寝の時間を削り、なんともないお爺さんやお婆さん相手に、気のない検査をする羽目になったのでありました。ややこしいケースでなかったのが幸い。
投稿者 webmaster : 2006年04月07日 23:59
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> スマートな給料泥棒であり続けようという私のポリシーには
「スマートな」ってところがミソですね。
無様で良ければ現在の私がそうなんですが、
誰が見てもそうと判る月給泥棒は、
いつまで月給泥棒でいられないところが難点です。
投稿者 スポック : 2006年04月10日 02:46
> 家族がビビッてしまって本人に治療の必要性を説得できず、
> 患者にしてみれば、「物忘れは大したことがない」という
> 錦の御旗を得ているのに何を今更と思うだけで、
> やりにくいことこの上ない。
たしかに自覚症状の無い初期の痴呆の患者を
医者に診せるのは非常に難しいですね。
「性格が変わった」みたいに具体的な事例を挙げにくい病変だと、
本人は「変なのはおまえらの方だ」くらいに思っているので、
下手をすれば本人を怒らせてしまいます。
自分が呆けるときはきっとそうなるような気がして嫌ですね。
投稿者 スポック : 2006年04月10日 02:08
開業、良い響きの言葉です。
組織の方針に唯々諾々と従うを良しとせず、借財を背負いながら独立への道を歩んだ医師を私は知っている。
…獣医ですが。
投稿者 小狸工房 : 2006年04月08日 19:03