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うつ病はその治療手順がほぼ確立しているとはいえ、時には治療に抵抗して慢性化し、深刻な障害を患者さん自身とその周囲に及ぼす。自分自身の印象では、症状の軽重というのと定型的治療への抵抗性というのはあまり関係ないようにも思え、もしかしたら自分はまったく別の疾患を同じものだと思って対応しているのではないかと、疑心暗鬼に陥ることもある。
DSM基準とかICD分類が一般化したのには、診断基準を統一することで治療の有効性を客観的なものにしようという意図があったのだろうが、なにせ表面的な症候と短期的経過を頼りに作られたそれらの分類は、「本当に疾患の本質を取り出しているのだろうか?」という疑問に答えるようなものではないのである。
そういう方向で書き始めるとキリがないので、ここではうつ病治療に新しい方向から光がさした(かもしれない)という知らせを紹介。向こうでは一般報道もされている。「ボツリヌス毒素によるしわ伸ばし治療が、うつ病に奏功した」というニュースである。
メリーランド州のシェビィ・チェイス美容センターで皮膚科・美容外科を担当するエリック・フェンツィ医師は、遷延したうつ病者がしばしば眉間に深いシワを刻んでいることに注目、シワを治療することがうつ病の改善につながるのではないかと考えた。彼はDSM-IVで大うつ性障害と判定され、かつ治療に反応しにくい症例10例に対し、眉間のシワにボツリヌス毒素を注射するシワのばし治療を行い、その後のシワ、精神症状双方の経過を観察した(精神症状の判定は臨床心理士が行っている)。
2ヶ月後の評価で、10例中9例の症例において抑うつ症状は消失し、残り1例にも気分改善が得られるという結果が得られた。もちろん、シワも改善して表情は晴れやかなものになったのは言うまでもない。この結果は今月発刊されたばかりの"Dermatologic Surgery"に掲載されているが、精神医学の専門家からは、「挿話的な改善に過ぎず、ボツリヌス毒素治療自体、試しに行うには高価につきすぎる」と、冷ややかな目で見られているという。
昔の精神科教科書には、慢性化したうつ病者が示す、いかにも悲哀を感じさせる前頭部からまぶたにかけてのシワを、「所見」として記述してあった。たしかグラーフェのシワと言うような、固有名詞が付いていたような気がする(違ったかな)。いま検索してもどこにも見つからない。たいして意味がなかったから忘れられたのだろうが、もしシワは単なる結果ではなくて、抑うつ症状持続の理由にも原因にもなるというような認識が一般化したら、これもまた復活するかも知れまへん。
精神症状は、その内容よりは形式の方が重要だと考えている私には、このパイロット・スタディはまことに意味のある研究だと思える。人間、やはり形が第一というところ。偶然とはいえ、ボトックス治療のライセンスも得ていることだし、早速やってみようかなとおもったのだけれど、やっぱ保険は通らんでしょうな。持ち出しでやるにはちょっと値段が高すぎるし、なかなか都合よく行かないものだ。1回10万円かかってもいいと言う方は、是非ご連絡の程を。
ERIC FINZI, MD, PhD, and ERIKA WASSERMAN, PhD."Treatment of Depression with Botulinum Toxin A: A Case Series": Dermatologic Surgery. Volume 32 Page 645 - May 2006
元論文はこちら(PDF)。
投稿者 webmaster : 2006年05月23日 23:59
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