« 女性よ、限界を知りなさい! | メイン | ジャガイモバズーカ砲の作り方 »
奈良県で起こった転送拒否事件について、医師が主催する多くのサイトで、侃々諤々の熱い論議が続いているようだ。その事件とは、奈良県の某中規模自治体病院産科で患者が分娩中に意識消失・けいれん発作を来たし、重度の子癇発作と考えた産科主治医が、18もの病院に転送依頼したが断られ、19軒目の大阪国立循環器病センターが受け入れたものの、 患者は脳出血を併発しており死亡、子供だけは助かった、という「事件」である。(参照したのはこちらのサイト。さらに詳しいことはこちらも参考に)
正直いって、私はこういう問題に言及するのは苦手で、上の事件記載の中で一番気になる点は「病院の数え方は『軒』でいいのか」という事だったりする。真面目な医師ブロガーたちが医療の危機について語りつづける中、大沢あかねの一発ギャグや、Youtubeのコント映像のことばっかり書いていてはイカンと、自分なりに考えてみたのだが、どうも問題意識が微妙にズレまくるのである。
多くの(といってそうたくさん読んだわけでもないが)医師たちは、この問題の本質は「マスコミなどが医師に対して過剰な結果責任を押しつけ、その結果、医師たちの多くが防衛医療に走っている」ことの現れとみているようである。もちろん防衛的となることについては、政府の低医療費政策のために充分な設備やスタッフも揃わないのに、何でもかんでも受け入れることを強いられ、神のごとき医療成果が得られるわけがなかろう、すぐに警察まで出てくる現状では受け入れ拒否も当然という、「現場の声」が付加されるわけである。
特に専門医の不足が喧伝される産婦人科領域や小児科領域で、あえて使命感からそうした見返りの少ない分野を引き受けている医師たちがバカをみるとされる今の制度について、当事者に対する同情の声は大きいようである。まことに、義を見てせざるは勇なきなりという古来の美徳を踏みにじる、今の医療制度の不合理には憤懣やる方がないものを感じる、と言いたいところなのではあるが、やはりヘソ曲がりの私には、微妙な違和感が残る。一般論に持って行くには、どうも個別的なところで疑問が尽きないのである。
まず第一に、妊婦が意識消失を起した時、なんでCTを撮らなかったのだろう。レントゲン技師が当直していなかったといえ、呼び出せばいいのだし、移動させると状態が悪くなると危惧したという説明は、遠方に転送させようとしていたことと整合性がない。ここで脳出血が発見されていたら、転送はかなり容易になっていたと思われるし、予後を示して患者家族を納得させることにもつながっただろう。
結果論的に意識消失・けいれんを子癇だという判断は間違っていたのだが、それを問わぬ事にしても、その判断からは、次ぎにやるべき事は胎児の早期娩出ということになるのではないか。帝王切開になるにせよ、最先端病院でないと出来ないことではなく、産直医師以外に外科系と内科系の当直医が揃えられるような病院なら充分対応出来た筈である。そりゃ取り出される子供にもリスクは高いだろうから、NICUのような設備があるに越したことはないだろうが、ほっときゃ母子とも共倒れなので、まず母体をを優先する判断になるのは致し方なく、現に家族もそれを望んでいたと報道されている。
正しい判断の元で、なすべき事をなしても、予想外の不幸な転機をとるというのはある割合で避けがたく、そういう結果をもって法的責任を問うというのは異常な態度である。私もこれについては以前、プチ陰謀論的な見地で意見を述べたことがある。こういう理不尽に対しては断固抗していくべきだとは思うが、今回の「事件」では、あまりこの「なすべき事」を当事者が果たしたという印象に欠けるのである。
制度の矛盾と人々の無理解から、産婦人科医や小児科医は次々に現場を去っていると言われるのだが、、実際は産婦人科医数の減少というのはそう目立つものではなく、出生数の減少ということからみれば、少なくとも2年前までは実質的減少ということはない(資料1、2)。小児科医はむしろ増えているぐらいである。
産科に関しては、分娩を受け入れない病院が増えたと報道されているので、開業にシフトしたのかも知れないが、その場合お産を受け入れない筈もなく、そんなに「産科医療の危機」といえるような事態があるのかと思ってしまう。大体、お産は病気ではないのだから、全てのケースに医者が関わらないといけないとも思えない。後継者がいない、皆現場を去っていくというなら、開業助産婦さんなどをもっと育て、リスクの高いケースに集中して、臨機応変に関わるような体制に変えていくのがスジではないだろうか。
日本の救急医療施設というのは、結構高度な機能を持ちながら、ことお産がらみになるとまず無力なところが多い。お産というものが、何か特別な聖域になっていて、一般医が関わる余地とその機会に欠けるのである。これは救急医側だけの責任だとは思えない。
現在の医療制度がかなりの矛盾をはらんでいるのは事実で、厚労省がそれをどこに導こうとしているのか、その姿勢には疑問点が多いのもまた事実である。マスコミが無益な不信をあおる報道を続けることも腹立たしいことであるし、それを受けてか、司法行政関係者が新利権開拓をはかろうとしている風潮すらあるのは、さらに許し難いことだと思える。
ただ、そうした状況を理由にして、医療サービスの提供という医師の基本的職責を忘れた意見がまかり通るなら、医療がそのあるべき姿にすこしでも近づく契機は永遠に失われるだろうと私は思う。
うーん、こんなに真面目な意見でしめる予定はなかったんだが……。
投稿者 webmaster : 2006年10月28日 19:38
このエントリーのトラックバックURL:
http://med-legend.com/mt/mt-tbcba.cgi/937
あまり質のよくないコメントまで混じりだしたので(m*ru 氏のことを言っているのではありませんよ。はじめから削除するしかないような、いくつかの馬鹿コメントの話です。中には私だけでなく、投稿者へのかなり悪質な罵倒・中傷も含まれます)、ここのコメント欄への投稿は閉じさせて頂きます。
オンライン医師コミュニティでは今回の事件にかんして、理不尽な医師たたきの結果であると言う論調に多くが同化していて(もちろん私だってその意見が全く間違っているとは思わない)、それ以外の意見を認めないような風潮さえ一部にありますが、これは逆に危険な徴候であると私は思います。
医師たちがその狭い世界で、自分たちの努力を社会が正当に認めないという泣き言をいくら言おうと、それを社会が認めることはないでしょう。救急受け入れ拒否も当然という勇ましい意見を、いくら仲間内で言おうと、理解してもらうための努力抜きでは、反発を買うだけです。
お前らはなんだかんだ言おうと、充分経済的に報われているではないか、それに応えるにはもっと血と汗を流してもらわないといけないんだという、別の間違った高レベル理不尽の方がよっぽど世の中では通るという実情を無視してはいけないと思うのです。
私には転送を決めた主治医の意見を云々するだけの情報も乏しいのは確かながら、少なくとも報道によれば家族はそこでなされた苦渋の決断の内容については、全く共有していないのです。
その点では、単なる判断停止に陥ったのと同じだと言われても仕方がない部分があるのではないかという批判は当然あり得るはずだし、それに対してプロから見た細かな可能性の迷宮を提示しても、有効な反論になるとは思えません。素人の世界に通じる説明が出来ないプロは、所詮現実的には素人を越えることは出来ないはず。
そのあたりへの、私なりの意見提示のつもりでしたが、基本的に人の意見を聞く耳持たない私の資質がメインの理由とはいえ、あまり噛み合わなかったのは残念でした。
投稿者 webmaster : 2006年10月30日 22:55
>子癇だとしても脳出血だとしても一人医長の病院で対応が困難と産婦人科医が判断した。そのため直ちに搬送を決断し、CTで診断をつけるより速やかな搬送をより優先しえた。その判断をもって不適切と断言することはできない。
結果論を論点にくわえることはおかしいのですが、「速やかな搬送」というのは実現していないわけですよね。柔軟な対応を忘れ、とにかく転送という結論に固執したのではないかと勘ぐられても仕方がないのではないですか?まあ、プロどおしなのだから勘ぐりでものを言うなと言われると困ってしまいますが。
それと、私は今まで田舎病院巡りばかりしてきて、産婦人科が1人医長で無いような病院で働いたことがないのです。それでも今までの同僚はこういうケースに、対応していましたよ。なにせ、他に転送したってそこもやっぱり1人医長なんですから。
ちょっと複雑なケースは転送しかない?じゃ何のための専門医なんだ、と普通の人は思うだろうし、私のような外野系の医療人もそう思います。そこがすでに既定になっているのでは、まず一般の人を納得させることは出来ないと思うのです。
それと、攻撃的な意見という指摘ですが、わたしはそれほど社会適応的な人間ではありませんので、気に染まぬ意見には攻撃的な言辞で返すこともあります。それほど民主主義的手続きというものを信じておりませんし、基本的に意見のもとは決めつけと思いこみです。もちろん、それなりの根拠はあるつもりですが。その程度の人間なので、お気遣いは無用です。
投稿者 webmaster : 2006年10月30日 22:36
コメント拝読しました。
特にguri先生、非常に勉強になりました。
webmaster様、なぜそのように攻撃的な反応をなさるのでしょう??私は少なくともwebmaster様のサイトも書き風も好きでしたし、maruさんも別に先生を精神科医だから挑発しているわけではないと思います。
蒸し返すのもあれですが、結果論的に今回のこの件で書き込みが増えたのは
>>結果論的に意識消失・けいれんを子癇だという判断は間違っていたのだが、それを問わぬ事にしても、その判断からは、次ぎにやるべき事は胎児の早期娩出ということになるのではないか。帝王切開になるにせよ、最先端病院でないと出来ないことではなく、産直医師以外に外科系と内科系の当直医が揃えられるような病院なら充分対応出来た筈である。<<
との先生の内容につき、純粋に医学的討論が行われたと理解しております。
先生の見解に対し、「子癇だとしても脳出血だとしても一人医長の病院で対応が困難と産婦人科医が判断した。そのため直ちに搬送を決断し、CTで診断をつけるより速やかな搬送をより優先しえた。その判断をもって不適切と断言することはできない。」という産婦人科医の見解を覆すに足る根拠がどこまであるのか、という話だったかと思います。
私自身は冷静なつもりで、先生の人格攻撃をしているつもりはありませんでした。
しかし先生の「ぬるい利権」「気の利いたコメントをしているつもりなのですか??」という発言はどう聞いても攻撃的、感情的です。(精神科医にこんなことを申し上げるのは僭越ですが・・・)何か奈良事件がどうしても過失があったという結論に持っていきたい事情でもあるのかな・・・と邪推してしまうほどです。
最初はこんなことを書くつもりはありませんでした。
私もこの件に関してもう書き込むつもりはありません。
専門家同士、日々自分の分野で研鑽を重ねてまいりましょう。
投稿者 nara-watcher : 2006年10月30日 22:01
>てんかんの既往のある古い患者が発作(と思われるもの)を起こしたとして、深夜に技師を呼び出してCT撮るか?と考えていただければいいかと。
もう一つ理解しがたいコメントですね。反論のつもりなんですか?古いてんかん患者と、初めて意識消失を起こした妊婦さんが、あなたにとっては全く同じような例なんですね。
私は自分でCTぐらい操作できるので、急ぐ場合は自分でやりますよ。今いるところは技師常駐なので、当然そちらに任せます。
もちろん、古いてんかん患者の発作を、重積状態でもない限り、いちいちCTとるような馬鹿な真似はしませんがね。当たり前でしょ。
当然、転送もしませんが。
もう一度いいますが、何か気の利いたコメントしたつもりなんですか?(不毛なのでRESは結構です)
投稿者 webmaster : 2006年10月30日 21:32
guri 様
ご丁寧な説明を有難うございました。
私がちょっと舌足らずでしたが、私の云うガイドラインとは、どのような治療か、ではなく、どのように次の行動を判断すべきかの判断材料のリストを書いたものを想定しています。私の罹った病気でも、治療の病状によってICUか通院で済むかの差があって、一律な治療法はなく、ガイドラインにも(治療/転院を決める際の)判断材料が書いてある状況で、そういう意味でのガイドラインなら産科でも可能な筈ではないか、と疑問に思った訳です、
ちなみに私の罹った病気(神経内科)では、最善の治療法(費用は同じ)が5年毎に更新されている状況で、その点では産科よりガイドラインを作りにくい気がしました。そこのところがどうしても理解出来なかったのであえて質問させて頂きました。
投稿者 元難病患者 : 2006年10月30日 18:50
ここの先生は精神科医のようなので…。
精神科単科の病院(CTはある)で当直していて、てんかんの既往のある古い患者が発作(と思われるもの)を起こしたとして、深夜に技師を呼び出してCT撮るか?と考えていただければいいかと。
『俺は撮る!』と言われたら何ともいえませんけど。(そりゃあ理想といわれれば理想ですよね~。でもさあ…)
投稿者 maru : 2006年10月30日 12:42
なぜ産科ではガイドラインが作りやすいと思われたのかが解りませんが、一産科医として長くなりますがお答えしてみたいと思います。
子癇というものは発生機序、原因がいまだ不明でもあり発症前に予測、対処する手段はありません。
PIH(旧称 妊娠中毒症)に合併することが多いとされていますが、合併しない事もあり今回の例でもそうであったと漏れ伝えられるところであります。
発症後の対応については、痙攣の抑制,全身管理,早期の分娩終了であることは産科医であるならば異論の余地はないと思われます。ここまでであれば、敢えて「常識」といっても良いかもしれません。
http://www.jsog.or.jp/PDF/51/5102-35.pdf
ただし、どのようにそれを行うかについては厳密に定められたガイドラインというものは存在しません。なぜなら先にコメントしたように、各々の施設によってそれが可能かどうかがあまりに違いすぎるからです。これが大学病院であれば深夜であっても即帝切、その後CTも可能であったでしょう。私も似たような例を大学勤務の頃経験しています。しかし、一人医長の病院や開業医であったなら自院で帝切は無謀であると考えます。そこで母体搬送の必要性が出てくるわけですが、子癇は母体搬送の適応であるとする一応の基準が示されています。
http://www.jsog.or.jp/PDF/51/5103-59.pdf
ここで挙げた文書はガイドラインでなく、学会誌で研修コーナーとして会員に示された最大公約数的な基準です。
なぜガイドラインが作られないかというと、一言で言うと「容易でないから」ということになります。
先のコメントで
>この議論で常識という言葉を持ち出すのは不適切だと思われます。
>我々は常識だけでは通用しない環境で仕事をしているのですから。
と申し上げたのは、個々の事情が異なるのに一元化はできないからです。
同じ理由でガイドライン化も困難です。もし個々の施設の能力を無視して、子癇は母体搬送せずに即帝切を要すというガイドラインが出来たとすると、極論すれば麻酔科医小児科医の常駐しない施設での分娩は全て不可能になります。なぜならあらかじめ正常経過をたどると保証された分娩は存在しないからです。
これが内科系の疾患で緊急性を要しないものであれば、ガイドラインで診断基準、治療方針を定めておいて、それが可能な病院に紹介転院という事も出来るでしょうが。
(……施設の能力といえば、余談ではありますが私が以前勤務した病院では深夜にCTのオーダーを出してから撮影までに1時間弱かかりました。当直技師の呼び出し、機械の立ち上げ、ウォーミングアップ(CTが暖まってからでないと撮影できない)にそれくらいの時間がかかるという事です。今回の例ではCTの是非も問われていますが、こういったことも判断を左右したのではないかと思っています。)
元難病患者氏の「なぜガイドライン化されていないのか」という疑問に対しての回答としては解りにくいものになってしまいましたが、webmaster先生にはご理解いただけるのではないかと思います。
投稿者 guri : 2006年10月30日 03:58
門外漢なので、コメントを差し控えていましたが、なるほど、搬送をすべきという判断がどのような思考を経て為されたか、という根本的な所の情報が足りないですね。ずっと下に紹介されたサイトのサマリーでもそれは分からないし。
このような(専門に方々には常識かもしれない)思考経路の情報がカルテ等に全く出て来ないから、マスコミもいろいろ疑問に思うのではないでしょうか。という事は情報開示の問題のような気もします。
最近は色々な分野で治療ガイドラインというものがweb上で公開されるようになって、お陰で私も自分になされた治療が最善のものであった事を医師を通さずに確認出来るようになったのですが、逆に言えば、学会がきちんとした「最新」のガイドラインをweb上に公表すれば、ここの議論でなされたような意見のすれ違いも防げるし、それ以上に、マスコミや警察が不十分な知識で医師を叩く事もなくなるのではないでしょうか。一方、ガイドラインのお陰で何が「疑問の多い治療」なのかも分かる訳で、これは現在治療を受けている人間がセカンドオピニオンをとるべきかどうかの有益な判断材料にもなります。私の罹った病気と同じ病気の患者・元患者の集まるwebサイトでの皆さんの治療体験を聞くと、20年前の知識とか30年前の知識で治療をして病状を悪化させたような例が(数は少ないですが)確かにあるようで、これが分かるのもガイドライン(詳細版)のお陰です。
このように、ガイドラインという情報開示の効用は医師の方にも患者の方にもある訳で、そういうガイドラインの存在が今回の議論で見えて来ないのは不思議でなりません。たとえば、子癇だという判断の際にすべき事というようなガイドラインが当然何処かに存在しているものかと思いました。少なくともエントリーはこの点に疑問を発していますよね。学会によっては5年以上も前にガイドラインを公表しているのに、産科のように比較的ガイドラインを作りやすい分野では、未だにそういう「学会公認」のガイドラインがweb上に存在しないのでしょうか? 生死に関わる病気をした人間としては、その事が非常に気になります。精神科にガイドラインは難しいかも知れませんが。
投稿者 元難病患者 : 2006年10月29日 22:17
私は自分の医療行為について、それを人に説明する時の基準はいつも「常識」なので、それが不適切と言われるともはや絶句するしかありません。
>もし児の状態が悪かったら?レスピレーターの用意は?小児科の体制は?母体の術後管理は?…中略…もし仮に7〜8cm開大または児心音がNon-reassuringであったとしたら…
そういうことを全て考え、18ヶ所の病院転送交渉をされておられたのなら、別に何も申すことはありません。自分のところではそういう事態には対処出来ないのは明らかで、よそなら出来ると最善の判断を下され、そう行動されたのなら担当医師達にはただただ脱帽するだけです。
投稿者 Webmaster : 2006年10月29日 19:46
>いつなにがなんでも帝切と言いました? こういう風に、言ってもいないことにすり替えるのは「感情的」なやり方ではないんですか?
>産科医が下した子癇だという判断を前提にしているわけでしょ。重症妊娠中毒やそれによる子癇の基本的な対応は妊娠を終わらせることだというのは、エビデンスなんて持ち出すまでもない教科書的常識だと思いますが。
この議論で常識という言葉を持ち出すのは不適切だと思われます。
我々は常識だけでは通用しない環境で仕事をしているのですから。
さて、子癇または重症PIHの時に最善の治療は妊娠の終了であるというのは国試的には正解ですが、現場ではどのように終わらせるかも考慮しなければいけません。もし児の状態が悪かったら?レスピレーターの用意は?小児科の体制は?母体の術後管理は?この場合、子宮口4cmで児心音は良かったという事ですから現場の医師達が搬送を優先したとしてもおかしくはないと思います。児心音が良かったからといって新生児への対応を準備しないで帝切するわけにいかないのは解っていただけると思います。もし仮に7〜8cm開大または児心音がNon-reassuringであったとしたら即帝切してその後に、母体搬送先と新生児搬送先を同時に探す事になっていたでしょう。
投稿者 guri : 2006年10月29日 18:01
>>現状でも助産所からのひどい母胎搬送を受けている3次周産期施設のDr達にとっては、助産所に多くを任せるというのは悪夢にも近い
>そんな現状の責任は誰にあるんですか?産婆はバカだ、で済ませるおつもりなんですか?
責任の所在というならば、それは助産師協会にあるでしょう。
エビデンスに基づいた医学的管理をしない助産所での分娩を推奨する事は全く出来ません。
このあたりの文献を一度お読みになってみてください。
助産所からの搬送例の実状と周産期予後
日本母性衛生学会誌46巻1号26-28, 2005.
投稿者 guri : 2006年10月29日 17:08
>分娩中に子癇ないし脳出血が疑われる時、搬送よりも緊急帝王切開を優先すべきという教科書があるのでしょうか??
いつなにがなんでも帝切と言いました? こういう風に、言ってもいないことにすり替えるのは「感情的」なやり方ではないんですか?
産科医が下した子癇だという判断を前提にしているわけでしょ。重症妊娠中毒やそれによる子癇の基本的な対応は妊娠を終わらせることだというのは、エビデンスなんて持ち出すまでもない教科書的常識だと思いますが。
かなり素人っぽい常識であるのは認めますが、それに対して「高度な医学的議論」を持ち出しても、一般的な納得が得られるとは思えません。
子癇という医学的判断を認めるとして、それなら何故この病院では対応出来ないのか、転送でどのようにリスク回避できるのか、そこを納得してもらう必要があるのではないですか。少なくとも、私はこの部分で納得できないのです。
投稿者 Webmaster : 2006年10月29日 15:35
「違う」かどうかは当然他科医である私に明言できる材料はありません。
しかしこの事件に関してはご存知の通り、非常に医師たちの関心も高く、極めて高度な医学的議論がなされているのもまた事実です。
分娩中に子癇ないし脳出血が疑われる時、搬送よりも緊急帝王切開を優先すべきという教科書があるのでしょうか??
もしあるなら後学のためご教示ください。
私の目から見ると議論に参加している専門医の多くは一般的教科書的事実を踏まえ、症例の特殊性をも踏まえて見解を出しています。
また奈良県産婦人科医師会も医師に過失はなかった旨の声明を出しています。
もちろんこれらの議論全てが先生ご指摘のように「ぬるい利権」を守るためのかばいあいである可能性は完全には否定できません。
が、それを専門家でない我々が決め付けるためには彼らの主張が医学的に妥当でないとする十分な医学的根拠が必要となるはずです。
そうでなければ単なる「医師=悪者」のラベライズであり、ヒステリックなマスコミの反応と変わりなくなってしまいます。
合同カンファレンスなどで、他科の診療方針に納得がいかないことは多々ありますが、そのような場合他科の診療内容に反論するためにはこちろもそれ相応の準備が必要ですよね。
(怒鳴りあったこともあります。懐かしい思い出です。)
医師同士の批判やdiscussionには根拠がいります。
仮に先生がこの事案についてシンポジウムや学会が開かれたとして産科医の前で「治療が尽くされていない印象を受ける。」と発言できる程度確信があるのであれば、私から申し上げることはございません。ですがそうでないなら、やはり「ぬるい利権」という言葉は一方的な感情論であるとの謗りは免れないと思います。
投稿者 nara-watcher : 2006年10月29日 15:02
二次情報からの議論としてはここまででしょう。
各々の意見を総合すれば、判断に基づく処置としてはその妥当性に疑問は感じられないと。
ただし疑問「点」は残るにしても、とっさの判断に基づく次善の策の取りようは無かったのか。取った上での結果なのか。
この先は当該医師の価値基準、現場の環境でのケースバイケースになりまする。
肝心なのはこうした事態は残念ながらある確立で発生すること。
当事者達は活発に議論すべきであること。
出された意見に基づき、医療現場の環境はより改善されるべきであること。
でしょうか。
投稿者 小狸工房 : 2006年10月29日 13:49
>(早期娩出が第一方針だと)おっしゃる医学的evidenceを教えていただきたい
私にはevidenceなる言葉の使用意義がもう一つわかりかねますが、根拠といえば「教科書にそう書いてある」というだけのことです。専門的な立場からすれば、もっと深遠な判断があるのかも知れませんが、一般医学常識からしても当然だと思えます。
違う、と言うことならそれ以上こちらが言うべきことはありません。
投稿者 Webmaster : 2006年10月29日 12:33
部外者は黙っていろ、などとは申しておりません。
そう聞こえたならなにとぞお許しください。
ただ我々医師はカンファや症例検討会で、「どうすることができたのか。何が最善だったのか。」を科学的視点から討論する生き物です。
私がお伺いしたいのはただ1点です。
>>産科医がこれは子癇だ、CTの必要はないと判断したのであって、その時点では早期娩出が第一方針になる筈だ
先生がこうおっしゃる医学的evidenceを教えていただきたい。
新小児科医のつぶやきでは産婦人科医の先生が
>一人医長の病院で子癇なら即搬送です。これを見誤ることはないでしょう。頻度はかなり少ないです。ただし分娩中脳出血よりははるかに多いです。<
と発言しておられます。
私の知る産婦人科医もおおむね同じ意見です。
したがってこれはlevel 5 evidenceではあります。
また、CTに関しましては現役救急医による否定的意見もあります。
http://qq14.exblog.jp/4044412
両者を総合すると「子癇としても脳出血としても一人医長病院では対応できないことは明らかである。よってCTの撮像時間も惜しんで搬送を優先すべきである。」とした産婦人科医の医学的判断が明らかに誤りだとかとは内科医の私には思えません。
釈迦に説法ですが、level 5 evidenceを覆すにはより上位のevidenceが必要になります。先生が産婦人科医でないなら、失礼ですが先生のご経験だけではlevel 5 evidenceたりえません。
「経験のないものはだまっていろ!」ではなく、「経験のないものが経験者を批判する際には科学的根拠を必要とする。」はまさにEBMの根幹であると考えます。
>>今回の「事件」では、あまりこの「なすべき事」を当事者が果たしたという印象に欠けるのである。
事件の重大性と先生の平素の科学的姿勢を尊敬しているからこそ「印象」では困ると思うのです。やはりevidenceが必要でしょう。
ご無礼の段、平にお許しください。
投稿者 nara-watcher : 2006年10月29日 11:42
>失礼ですが産科の経験ておありですか??
これ言い出したら議論にはなりませんなぁ。私は精神科とプライマリィケア、一般救急の経験しかありませんよ。だから何なんですか? 医療には各科の特殊性があるのは当然ですが、産科だけ特別原則が違うとは思いませんね。経験もないのに批判的なことを言うのは問題だというのは、それこそ「ぬるい利権」からの発想だと思うのは私だけでしょうか。
それと、お示しのリンク先は読みましたが、N医大には一度断られているのに、そこに転送することを前提にし続けたことがより解せなくなっただけで、とりたてて報道やネット議論から知る情報以上のものがあるとは思えませんでした。
>CTもとらず診断もつけず帝切に踏み切るのは搬送以上にriskyで無責任な行為と感じられます。
産科医がこれは子癇だ、CTの必要はないと判断したのであって、その時点では早期娩出が第一方針になる筈だと指摘しているだけです。それが全く間違いだ、部外者は黙ってろということなら別に固執はいたしません。
投稿者 Webmaster : 2006年10月29日 09:27
あ、下のコメントですが、過疎地の話で、都会の事情は知りません。120キロ離れた所は2次救急で、3次(最終)救急は600キロ離れていて、ヘリコプター搬送です。あと、地元の(1次)救急では、手に余ると判断した段階で、3次救急に電話で対処法を問い合わせ、そこで治療の変更なり搬送の決定なりをします。
それはそうと、理不尽な刑事訴訟をなくさせる為に医師会ってのがあるんじゃないんですか? 組合の強い国に住む人間には、ここが理解出来ません。
投稿者 北欧在住 : 2006年10月29日 03:09
うーん。
管理人は精神科医なんですよね??
失礼ですが産科の経験ておありですか??
私の貼ったリンクてご覧になりました??
>>為すすべもない、と言うののも立派な所見なんですがねぇ。そういう状態なら、子供だけでも守ろうという発想になるはずですが。<<
なるはずですが、というほど管理人は産科治療の緊急局面の判断に精通しているのでしょうか??少なくともその場でCTもとらず診断もつけず帝切に踏み切るのは搬送以上にriskyで無責任な行為と感じられます。それが管理人のおっしゃる「医療のあるべき姿」なのでしょうか?
>>正しいことをしている自信があるなら、最後まで裁判闘争で頑張るぐらいのつもりでないと、今の世の中どうにもならないのでは。今までのぬるい利権が通らない、という泣き言は聞きたくもありません。
医学的判断が妥当であり、過失が認定できないのにマスコミに結果責任を問われるのは承服できない、というのを「ぬるい利権」と決め付けられるのでしょうか??
放って置いてもこの件は「最後まで裁判闘争」になるでしょうが、せめて「ぬるい利権」と決め付けたEvidenceをお示しいただければと思います。
そうでなければそのような根拠なき批判は「聞きたくもありません」ということになり、「そんなにぬるいというならお前が当直してみろ!!」という不毛な議論になりがちで、建設的な
discussionになりません。
日頃から管理人の造詣の深さと勉強、科学的思考能力のファンだったのでこのようなコメントは書きたくないのですが失礼ですが決め付けによって感情的な反応を呈されているように見受けられます。
私見ですがevidenceを重視する医師が自分の意に添わない意見を言われた時に感情的になるのはもっとも犯してはならない行為であると考えます。
しかし、現実にはそのような態度をとる医師が決して少なくなく、
EBMそのものが醸し出すうさんくささにつながっているようにも思います。この部分は完全に私の主観ですが。
投稿者 nara-watcher : 2006年10月29日 01:42
>奈良では大きな怪我や急病は「手遅れになりやすい」と・・・
ちょっと前の話ですが、先々代の多選で知られる奈良県知事が病気になられた折りも、直通で大阪の病院に入院された筈です。行政トップにしても、その程度の信頼度だったと言うことではないのですか?
今もその状況はそう変らないのでは。ほかの県では知りませんが。
投稿者 Webmaster : 2006年10月29日 01:13
この話で、搬送問い合わせ先が奈良県内に2件だけで、後の十数件が全て大阪であることが、私は一番怖いです。
つまり、奈良では大きな怪我や急病は「手遅れになりやすい」と・・・同じ様な状況の都道府県がどれぐらいなのでしょうか?
投稿者 狼少年 : 2006年10月29日 00:42
>仮に脳内出血がわかった所で,当該の病院では為すすべもなかった
為すすべもない、と言うののも立派な所見なんですがねぇ。そういう状態なら、子供だけでも守ろうという発想になるはずですが。正しく観察はしていた、ただ責任だけは取りたくなかった、ってのは説得力に乏しいものです。
正しいことをしている自信があるなら、最後まで裁判闘争で頑張るぐらいのつもりでないと、今の世の中どうにもならないのでは。今までのぬるい利権が通らない、という泣き言は聞きたくもありません。
投稿者 Webmaster : 2006年10月29日 00:12
はじめまして.
僕の場合,医師側からの意見しか目を通していないため,意見が偏っていることをお許しください.
>まず第一に、妊婦が意識消失を起した時、なんでCTを撮らなかったのだろう。
仮に脳内出血がわかった所で,当該の病院では為すすべもなかった
and
見た目からは子癇と脳内出血が区別がつかず,確率的には子癇である確立が圧倒的に高い
and
脳内出血が診とめられず,CTへの移動中に子癇が再発した場合,確実に裁判で負ける
⇒搬送先を探すことに終始 だったんではないでしょうか?
ちなみに脳内出血とわかっていたなら,選択の幅はさらに減ったというのが医師たちの意見のようです.
仮に,脳内出血だとわかっていた場合,複数の脳外科医,産科医,小児科医,麻酔科医,NICU,ICUの空きが揃っていない病院が受け入れたならば,後に刑事責任を問われる可能性が十分にあるようです..
>今回の「事件」では、あまりこの「なすべき事」を当事者が果たしたという印象に欠けるのである。
現状が「結果をもって刑事責任まで問うという異常な態度」である以上,
犯罪者の烙印を押されるリスクを積極的に犯せと医師に要求するのもあまりに酷だと思いませんか?
投稿者 pekochu : 2006年10月29日 00:00
真相は誰にもわからないのですが、現段階では「当日何が起ったか」に対して確度の高い情報のようです。
よろしければご参照ください。
http://blog.livedoor.jp/pin2100/archives/50181246.html
私も産婦人科は門外漢ですが、この経過が真実だとすると、どうも医師は診療上最善を尽くしているように思います。
それと本件のマスコミ報道は医療機関に対する取材が全くなされておらず医学的事実はかなり信用に足らないもののようです。
投稿者 nara-watcher : 2006年10月28日 23:27
私の住んでいる街には総合病院はあるものの、産科はなくて、出産は全て120キロ離れた別の病院という事になっています。予定日の数日前にタクシーで連れて行く訳ですが、その際のタクシーの運ちゃん(男が多い)は助産資格を持っています。現にタクシー内で分娩したという話もあります。こういう形で産科を一極集中させる実験をして5年以上になりますが、不都合は無いようです。常に超未熟児にも対応出来るところがミソでしょうか。日本で上手く行くかどうかは未知数ですが、一応、お知らせまで。
投稿者 北欧在住 : 2006年10月28日 22:54
医者と産婆は大名行列を横切るのを認められていた逸話。
>妊婦が意識消失を起した時、なんでCTを撮らなかったのだろう。
は僕もずっと疑問に思っていました。
外野の門外漢として、あるいはこの時点での診断ミスから世論を逸らすための情報操作の可能性も。
意識消失から脳出血の可能性を勘案するほどの余力も現場には無かったのか。
これ以上の無責任な発言は憚られますので。
出産に伴う健康上のリスクも増加しているとも聞きましたが。
投稿者 小狸工房 : 2006年10月28日 21:28
>今回の奈良の一件は発症まではローリスクケースだったはず
そうなら、ずっと医者が診ていようが、助産婦が診ていようが同じでしょう。現に、医師は転送交渉以外の役に立たなかったわけで。
>現状でも助産所からのひどい母胎搬送を受けている3次周産期施設のDr達にとっては、助産所に多くを任せるというのは悪夢にも近い
そんな現状の責任は誰にあるんですか?産婆はバカだ、で済ませるおつもりなんですか?
投稿者 Webmaster : 2006年10月28日 21:14
コメントしたいところは多々ありますが、後半の一点だけ。
現場の感覚としては5年くらい前からものすごい勢いで分娩可能な施設、もしくは分娩受け入れ数は減っています。開業した産婦人科医は産科はやらずに婦人科のみになる事が多いのですよ。事実、神奈川県でさえ県境越えの搬送はあります。
開業助産所に任せれば、と言うのは全く無意味です。
今回の奈良の一件は発症まではローリスクケースだったはずですが、これが助産所でおきていたなら、為す術も無く頓死だったでしょう。
現状でも助産所からのひどい母胎搬送を受けている3次周産期施設のDr達にとっては、助産所に多くを任せるというのは悪夢にも近いものがあります。
投稿者 guri : 2006年10月28日 20:37