« デブでチビだとデートの機会がすくない | メイン | アーティストの自殺は公的利益 »

2006年11月15日  Retired husband syndromeあるいは「主人在宅ストレス症候群」 [医学・科学関連]

先々日のBBCワールドニュースに、日本からの報告として"Retired husband syndrome(RHS)"という記事が掲載されていた。まず簡単に内容を紹介してみる。<Link>

日本では60%の中高年女性が同じような問題に悩んでいると考えられている。その問題とは、彼女たちの夫である。何年もの間、「仕事と結婚していた」男性たちが引退する年齢に達したことが、その配偶者たちに深刻な影響を与えているのである。
記事は続いて、狭いアパートをテディベアであふれさせ、その世話で一日を過ごし、RHSを克服している一女性を紹介している。彼女たちの病理は、配偶者を付属品として扱ってきた仕事中毒の夫たちが引退し、目的を失って終日家にいることが引き起こしたものだというのだ。

これが日本においてとりわけ問題になるのは、西欧のように離婚という解決法をとりにくい社会的文化的風土があるからだとし、予定されている法的整備(年金法の改正のことか?)がなされても、この傾向は変らないと予測されている。その論調では、日本人特有の相互依存的体質が、問題のある夫婦関係を無理にでも続けるドライブになると言いたげである。

この記事では大阪の心療内科医、黒川順夫氏がRHSの元概念、「主人在宅ストレス症候群」を提唱したことになっている。実際、黒川医師の開設しているサイトを見れば、「私が『主人在宅ストレス症候群』と命名して学会(日本心身医学会近畿地方会)で発表した」とあり、それが海外でRHSと訳されて日本に逆輸入されたと一般には理解されているようだ。

私も同じような中高年女性の症例を結構たくさんみているが(*)、そんなに特別の枠組みとして取り出さないといけないような例なのかなぁと疑問がわいてしまう。たしかに、理不尽な要求を妻に強いる旦那というのは数多く、同時にまるでそれに無自覚である。しかし、あまりにひどいケースは離婚になるのは日本だって同じだ。妻たちにとって、それがそう社会的ハンディになっているとは思えない。

記事には、氷川きよしの追っかけをやることで夫との問題を回避している(と称する)妻の例が出てくるが、これを夫が原因だというのはあまりに夫に気の毒である。年甲斐もなくミーハーな、自己チュー女性というだけではないの?

何よりも解せないのが、RHSという概念は黒川医師が学会発表したとする時期の7年前に、すでに米国の医師チャールズ・C・ジョンソンによって提唱されている点である<Link:PDF>。それも、妙な文化的特異性などとは無関係に、召使い扱いされながらも家庭を守ることに専念してきた主婦たちを、引退した夫が無神経に自分のペースを持ち込むことによる葛藤という、はなはだ簡明な了解心理学的枠組みで説明しているのである。

時間的な先行性のことは置いておくとして、その内容に関しても、たまたま旦那の存在がテーマになった不安をあげつらっているだけに見える黒川医師の主張よりも、よっぽどまとまったものだというのが正直なところ。ジョンソン論文で提唱されている、「お互いの存在を受け入れなさい」という助言も、ごく自然なものだと思う。人間関係は相互的なものなのだから、夫ばかりに病因をみる黒川医師の視点では、別の病理に導くだけのように思えるのだけれど。<Via>

(*)以前、中津川で起こった無理心中事件について、この熟年危機の問題に触れたことがあるので参考まで。私の基本的なスタンスは相互性ということである。

投稿者 webmaster : 2006年11月15日 21:27

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://med-legend.com/mt/mt-tbcba.cgi/949

コメント