« DSM-IV病名ジェネレータ | メイン | 凍ったホットドッグで円周率を求める方法 »

2007年5月24日  大腿骨頚部骨折 [医学・科学関連, 日常・随想]

jinkokottou.jpg

田舎で一人暮らししていた80歳の母親がすっころび、大腿骨頚部骨折を起してしまった。それでも、受傷後はまずまずのスムーズさで病院に収容され、手術も受けて順調な経過であるとのこと。

こちらも知らんふりをしておくわけにいかず、まして同じ業界人なのに、一親等の家族に起こった怪我の詳細や治療、今後の見通しも知らないというのはイカンだろうと、遠路をおして二度も様子を見に行くこととなった。

大腿骨頚部骨折というのは、要は大腿骨と骨盤をつなぐ蝶番の部分に起こった骨折である。若い人にはそう起こることではないが、骨がもろくなった高齢者では、実に簡単にこの骨折が起きる。しかも、何故かその部分には外骨膜というものが無く、折れてしまえば血流も途絶え、骨新生がおこるとっかかりがないのである。

したがって、放っておいてもそれなりに骨が再生されるということが無いため、手術をしないかぎり元の機能を取り戻せないというやっかいな性質を持っている。(左上の写真は人工骨頭置換術後のもの)

しかも、この骨折とその治療の過程では、しばしば、せん妄状態を起すことが多く、それが収まっても結構な痴呆を残して、円滑なリハビリ進行を阻害するのである。一般的なウェブ解説では、「手術をして、ちゃんとリハビリすれば治る」という楽観的な記述が多いが、少なくとも、元の生活レベルを取り戻せる人はそう多くないように私にはみえる。私のように、術後にせん妄、痴呆化を来した例だけをみる立場からは、余計そのように見えるのかも知れないけれど。

それでも、例えば2004年の沖縄県での統計報告をみると、骨折前に自立歩行が可能だった人のうち、退院時に1人で歩けるようになっているのはわずかに35%である。老齢ということを考えてみると、その後にドンドン回復するとも思われない。整形外科医にすれば、手術をちゃんとやって、後方リハビリ病院に送った時点で一件落着であろうが、本人や家族にとって見れば、問題はそれからなのである。

長らくこの頚部骨折に典型的な術後せん妄を見ているうちに、私にはほぼ7~8割ぐらいの確率で、これが起こる人を予測することが出来るようになったが、ここでその蘊蓄を述べてみてもあまり益はないであろう。これこれの人は骨折するな、手術が必要な病気になるなといっているのと同じだし、予防法というのは、治療者が事前に充分な説明をして、これから自分の身の上に起こる事態の理解を得て、術後は充分な鎮痛と、不安の除去に努めるという、当たり前のことに尽きるからである。

私の母親の場合は、幸いなことに先の報告にある、35%の範疇に入れたようである。結構ビッコは引くようになったものの、補助具を自分で操作して何とか歩いている。こちらの生活スタイル変更まで迫られる事は当面無いようで、ひとまず一安心というところでありました。

投稿者 webmaster : 2007年5月24日 08:15

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://med-legend.com/mt/mt-tbcba.cgi/3474

コメント

というわけで尿素樹脂成型品による骨形成手術。
下顎骨粉砕骨折の患者に対し、従来はステンレス製の人工骨が用いられていたものに、四年に一度のボルトの締め直しの切開手術のわずらわしさを無くさんとスポンジ状整形品を患部に埋め込み、骨髄細胞を注入することで骨を再生させる施術の報告を目にしたときには、ああこれでオバーチャンの足も治るかもと期待したのに、つい先日の新聞記事で、大腿骨等の大きなもの、強いストレスのかかる部位には不向きとあって、あれやはり無理であったかと。

そんな心配をするよりも先にオバーチャンは骨になってしまいましたが。
そのオバーチャンのお葬式の当日に仕事が入ってしまい、息せき切って何とかお骨上げには間に合ったものの、遺骨を探ろうにも主なものは粗方拾われた後で、何か僕の手で納めねばとまさぐっていたら、あれなにやらやけにメカニカルなパーツが。
「あ、これはオバーチャンの人工骨!」

カーボン製の人工骨は見事に焼け残っておりました。

webmaster氏のお母様の速やかなご回復をお祈りします。

患者さんとのコミュニケーションの障害は、言葉遣いによるものも大きいようですね。
高齢の患者さんが日常で用いる地方(じかた)言葉に堪能な医師は限られてくるかと。

投稿者 小狸工房 : 2007年6月 2日 22:35

それなりに興味がありましたので、大変役に立ちました。
頚部骨折に限らず高齢の方の術後経過に現れやすい症候かとも思いますね。

投稿者 skt48 : 2007年5月25日 18:28

この手の問題が、医者の人格と患者の性格にのみ委ねられているなら少し困りますね。
私個人の偏見の上での話ですが、総合医療といっても内科がイニシアチブを取って居る限り修正されない気がします。

ところで、これやるとオートレースでは引退を覚悟するようにと宣告されたりしてましたが、今やどうなんでしょうね・・・

投稿者 問題児 : 2007年5月24日 23:38

>思わせぶりなところが、まるで、香具師の口上のようですが・・・

整形外科的治療過程で一般的な注意をすれば、かなりの部分予防出来るものについて、わざわざ性格傾向やら行動パターンなど、そう理解されにくい指標を云々しても仕方がないといっているだけ。私にはそれなりに興味があることですが。

簡単にいえば、器質的な理由だけでなく、ある種のコミュニケーション障害の際(だから、原因は患者側だけでなく、医療者側にあったりする)、これが起こりやすいと私は見ています

言語的なレベルでいいから、今後の経過について充分な理解を得させる必要があるのですが、すでに痴呆があったり、変に拒否的だったりと、受け入れが無理な人はいますね。

多少、詳しく書いて見ましたが、役にたちましたか?興味なんかなかったかも知れないけど。

投稿者 webmaster : 2007年5月24日 22:19

>私にはほぼ7~8割ぐらいの確率で、これが起こる人を予測することが出来るようになったが、ここでその蘊蓄を述べてみてもあまり益はないであろう。

思わせぶりなところが、まるで、香具師の口上のようですが・・・

投稿者 skt48 : 2007年5月24日 18:14

おお!これはまさに私が一時高級に釣られて勤めていた某社のHip Joint!しかし、身体に受ける外傷と精神的退行がそんなに関係あるなんて、思いもよりませんでした。ご母堂様が大事に至らず何よりです。

投稿者 メタルヘッド : 2007年5月24日 09:34