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ベスターというと、「虎よ、虎よ!」というのを昔々に読んだ覚えはあるのだが、中身にはなんの記憶もない。タイガースの話ではなかったと思う。よく短編小説の作法で引用される「女か虎か?」のせいで、まるきり違うというのは判っていても、記憶が撹乱されている。
この小説の特徴を一言で言えば、言語表現に止まらず、楽譜やら妙なモンタージュ風の画像やらも使われている実験的なもの、という事に尽きようか。その意図があまりに見え透いている、ロールシャッハテスト画像のいい加減な改変もあって、正直いうなら、なんじゃこりゃ、である。
ストーリィ自体はそう複雑ではない。22世紀、経済破綻のため、通称「ガフ」と呼ばれる広汎なスラムになってしまったニューヨーク周辺で、残虐な連続殺人事件がおこる。警察幹部(このインド人警部の造形はなかなか秀逸)と、被疑者の一人になった日系の香水調香学者、精神工学という特殊カウンセリングをおこなう女性(ツチ族のブラック・ビューティって、どんな人を想像すりゃいいんだろ)の三者が、富裕層の有閑マダムグループがお遊びでやった悪魔召喚儀式が原因ではないかと疑って、謎の解明を図るというもの。
結局、納得のいく解決が得られるわけではなく、ある意味、人類のレベル上昇というような「地球幼年期の終り」みたいなテーマが出てきたりして、なんじゃこりゃ感は最高潮となって話は終わった様な気がする。正直いって、最後の方は何が何やら、よう判らんままに読み終わり、ホッとした記憶があるだけ。
世の中、そう面白いものが常に用意される訳でもなく、巨匠と呼ばれる人だって、エンターテインメントと高邁な思想を両立させるような創作力には限界があるという、現実の制限というのを思い知らせてくれる一品といえますか。考えてみれば、SFに望まれる社会的機能というのは、まさにブンガク的なものと娯楽機能の分離であるのかも知れない。
読後感は、筒井康隆の「脱走と追跡のサンバ」に極めて似たものであった、というのもいっておく方がいいか。ただし、ギャグが多い分だけ、「脱走と......」の方が楽しめますけどね。
投稿者 webmaster : 2007年8月18日 20:51
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