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2007年9月18日  ある紹介患者 [医学・科学関連, 日常・随想]


整形外科から、術後患者についてのコンサルテーション依頼が来る。また術後せん妄か、と思えばそうではなく、脊椎管狭窄で歩行困難になったため、緊急手術を行った70歳の男性が、強い不眠と不安を訴えているという。

どうせ、充分な術前説明をせずに手術して、術後の経過を踏まえた今後の予測とか方針をちゃんと伝えていないための不安だろうと、はじめから完全に決めつけて病棟に行く。整形外科のチーフは手術の腕はいいが、その自信のせいか、およそ患者に充分な説明すると言うことをしない、最近では珍しいタイプのエリート医師なのだ。

患者と話をしてみると、私の予測は寸分たりとも間違っていなかった。以前から脊椎管狭窄の診断は下されていて、数年前に上肢のしびれがひどくなったので頚部脊椎管の手術をして改善。下肢のしびれと脱力もあったが、そうひどくないため経過観察されていたが、2ヶ月ほど前、急に足が動かなくなり緊急入院して手術となった。

現在、下肢には強いしびれ感と脱力が残るものの、上肢を使ってかろうじてつかまり立ちは可能という状態である。やっかいなのは膀胱の収縮がうまく行かなくなっており、自己導尿が必要になったのだが、以前の頚部手術のおかげで、本人は下をうまく向けないため、うまくカテーテルを扱えない。

日中なら看護を呼ぶこともあるが、夜間は気が引けるのであまり頼めない。また尿意を催したらどうしようかと不安になり、夜も眠れないのだという。すでに睡眠導入剤は処方されていて、それで2時間ほどは眠れるが、いったん目覚めるともう眠れない。退院しても、こんな調子で妻を頼らないといけなくなるのだろうか。自分で満足に動けもしない生活が待っているかと思うと、それも不安の原因になると、憔悴した表情で切々と語る。

正直いって、こういうケースに外部の我々が呼ばれても、何もすることはない。必要なのはまず、主治医が今後の見通しをラッキーからワーストにいたるいくつかのシナリオとして説明し、それぞれの場合において、どのような覚悟が必要かを理解させることなのである。それで、本格的なうつ状態に落ちこむとか、解離状態になるというのなら、そこで我々の出番になるわけだ。

そりゃ、それなりの処方テクニックで、不安を多少軽減させることは出来ないでもないが、歩行訓練中の人に脱力を来したり、排尿困難をさらに悪化させるリスクもあるので、あんまりやりたくはない。間違うと、初めからあった歩行困難や排尿困難をこちらの投薬のせいにされてしまい、院内政治の犠牲の子羊に祭り上げられる危険性も高い。

そういうわけで、患者には今後の見通しをちゃんと説明して貰い、どのように今後の生活を再建するかを一緒に考えて貰うようにと指示する。もちろん、そんなことして貰えるはずもない、というのは判っているのだけど。寝たきりにならなかっただけ有り難いと思え、という意味の言葉を遠回しに言われ、ケースワーカーと相談しろといわれるのが関の山。

こういうことは必ずしもこの主治医だけの問題ではなく、全体的な運営理念が「高度医療技術を下々に施す」という事だけを目的にして疑わない雰囲気のせいである。何より納得と理解の上に進められるべきものが医療だと私は思うのだが、その辺がここではあまり通用しないということが、最近になって判るようになってきた。

今までは田舎のナアナア病院ばっかだったからかとも思うが、そう言うところでも、次第に医療側の妙な原則性や積極性を主張する一派が目立ちだしていたような気もする。先進的な技術をとことん追求しないと、最善を尽くさなかったと訴訟の対象になったりするといわれる(私は勿論そう思わない)ことが理由なんだろうか。

なすべき事をなしていない例というのは、確かに存在すると思う。でもそれは、患者の理解を得て、病への姿勢に腰を入れて貰うという基本的な作業にあるので、とにかく先進的な技術を適用することが第一義なのではなかろうと思うのだった。

でも、こんなところで愚痴めいた事を書いてるようではいかんな。筋の悪い独善医療に対して、多少の批判はしないといかんとは思う。でも、トップが**では無駄なんですわ、実際。従って、こちらの立場もあるので、先の患者の紹介状返書には、「現在の不安は予後への理解を欠くことが原因だと思われますので、貴科としての充分な説明が必要でしょう。なお、投薬に関しては貴科での睡眠導入剤処方で当面経過を見られればよいかと存じます」と、嫌味が混じらぬように書いたつもりだが、多分陰ではボロクソだろうなぁ。

投稿者 webmaster : 2007年9月18日 23:59

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