« 顔面スペクトラム・スポーツ版 | メイン | スケベな事を考えると痛みが和らぐ »
先日の「極東ブログ」に、「ベトナムの男女出生比率不均衡雑感」というエントリーがあった。ベトナムでは、「男の子の誕生を望む文化が根強い」ため、「超音波や中絶手術の普及によって新生児の男女比が大きく崩れ始めている」という報道記事を紹介したものだ。中国やインドでも同じ問題が深刻になっているという話も、一応紹介してあったが、それ以上の展開がされていたわけではない。
確かアジアの新生児男女比の崩れは、男尊女卑文化による中絶や、作為無作為による嬰児殺しが主な原因ではなく、感染症、それもB型肝炎ウイルスによるものだという説が唱えられていたような、なんか曖昧な記憶はあるのだが、それには全く触れられていない。単なるトンデモ説なので、まともな報道機関や、極東ブログのような超一流ブログが言及するような物ではないのだろうか。
私の記憶元ネタはどこであったかと、google相手に数分間調べてみたところ、記憶があるのも当たり前、何のことはない私自身が2年前に、ここでその学説に触れていたのであった。
この説を唱えたエミリー・エスター(オスター?)は当時まだハーバードの大学院生で、この学説以外にも、かなり注目された論文をすでに何本も書いている。有名なところでは、2004年に出版された"Witchcraft, Weather and Economic Growth in Renaissance Europe"(ルネッサンス期ヨーロッパにおける魔女、天候、経済発展)、2005年の"SEXUALLY TRANSMITTED INFECTIONS, SEXUAL BEHAVIOR, AND THE HIV/AIDS EPIDEMIC"(性病、性行動とHIV/エイズ流行)であろうか。
前者は、ルネッサンス期の魔女裁判と、寒冷気候との関連を指摘したものだ。つまり、寒冷気候で生産力が落ちると、人々の不満が魔女狩りに向ったということである。このグラフがその主張を雄弁に物語っている。
後者はアフリカ、特にサハラ南部諸国にHIV蔓延が集中しているのは、エイズ以外の性行為感染症による性器びらんがHIV移行率を高めているという主張である。これらの国々や先進国による、教育による奔放な性行動の是正や、感染後の発症予防薬剤の調達というHIV対策は有効率が低く、もっと安価な一般性行為感染症対策に力を入れるべきだとされる。これについては、母子間感染を全く考慮していないという、彼女自身も認める欠陥があるようで、エイズ撲滅活動を行っている人々からの評判は芳しくないようだ。
はじめの、HBV感染が新生児男女比を崩しているのだ、と言う説にせよ、それに先立つ論文にせよ、彼女のスタイルは一般的な公開データを使って、物事の間に隠されている(もしくは無理矢理でっち上げられた)、予想外の関連性を示すというものである。
例えば、「風が吹いたら桶屋が儲かる」という因果関係を、どれだけ修辞を尽くして説明されても、眉に唾するまでにも至らないだろうが、もし仮に、気象庁と通商産業省のデータを使って、年間強風日率の変化と桶屋産業総年商変化の相関を示されたら、やはり一応のリスペクトを示すしかないであろう。
そんな、生データの強みが、彼女の説を単なるトンデモから一線を画したものにしていると言えようか。しかし、新生児男女比の問題だけをみても、その後はさっぱり話題にはなっていないようだ。HBV対策によって男女比が正常化していくことも、それこそ公開データを丹念に調べれば、納得のいく形で示すことが出来ると思うのだが、調べた限りでは行われていない様子なのが残念。
もっとも、例えばこんなトンデモ説だって、言うならば公開されたデータを根拠にしているんですけどね。
投稿者 webmaster : 2007年11月19日 22:44
このエントリーのトラックバックURL:
http://med-legend.com/mt/mt-tbcba.cgi/3597
追記です。
トキソプラズマ感染による男子出生傾向はかなりあるみたいです。これだけはっきりしているなら,サンプルから影響を外して検証しないといけなくなりそうです。
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2006-10/s-bbb101106.php
投稿者 complex_cat : 2007年11月23日 11:12
その手の論文は,相関に関する帰無仮説が棄却された瞬間に,従属変数が目的変数を説明する絶対要因に変身します。実際は,寄与率で考えれば,相関係数が0.7程度あっても,51%は他の要因で目的変数が説明されなければならないことを示唆しています。
ちなみに性比を説明する話では,女王による産み分け可能な社会性昆虫で適応度を上げるための戦略として研究が進み,そんなわけにはいかない哺乳類でT. H. CLUTTON-BLOCKによる,より社会的順位の高い雌が男の子を生む傾向があるという哺乳類の戦略的産み分けを示唆するような論文まで出ました。しかし百歩譲ってもアカシカの話では相関係数は0.4止まりで,80%以上は別の要因に影響されると見ることもできます。ちなみにこちらのブログで,人の母親の妊娠に至る期間が長いほど、男児が多くなるという話をご紹介いただいのですが,非常に興味深く,哺乳類の性比のバイアスについては,何となく,そういった話の方が,まだ,私はしっくり来るのです。
「頭の良い」「生物音痴」の学生に暴走させると,足の臭さと繁殖成功は相関するとか,そういう仮説を本気でぶっ立てる者が出ますね。載せる雑誌が有れば,稚拙な2軸の相関分析の論文は,幾らでも生産できると思います。
投稿者 complex_cat : 2007年11月20日 18:45
コメントしてください